マクロビオティック・レストラン(54)
姉夫婦の言うとおりにしました。――結果は言わずもがな、です。利益がガクーンと落ちたのです。利益は売り上げから税金などの経費を引いた残りですから、経費が上がれば当然、利益は減ります。
「値段を上げたら?」姉は簡単そうに言いました。
十パーセントくらいだったら上げられるでしょうが、そのくらい上げても焼け石に水です。
経費もすこしくらいだったら落とせるでしょうが、質を落とすのはいやなので、そう多くは望めません。
Hの姉は、ウイークエンドには手伝いに来てくれました。彼女はコネチカットで高校の先生をしているから毎週ニューヨークまで出かけてゆくのは大変ですが、レストランを立て直すという気持ちに背中を押されて、最初の数週間は張り切って来てくれました。
手伝うといっても、まさかウエートレスをするわけにもゆかないから、キャッシャーを手伝ってもらうことにしました。
メニューを知らなくても客からお金をもらうことはできますが、やはりメニューを知らないので大きな戦力になりません。いちいち私に訊いてくるから、そのあいだ私の集中力はそがれてしまいます。
おどろいたことがありました。店の従業員に外から電話がかかってくるんですが、「すみません。いま彼(彼女)は忙しい」と言って、ガチャンと切ってしまうのです。彼女のほうが正しいのかもわかりませんが、私たちは忙しいときでも取り次いでいましたから、ちょっとおどろきました。
(次回は8月第2週号掲載)
〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。