〈コラム〉「そうえん」オーナー 山口 政昭「医食同源」

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マクロビオティック・レストラン(35)

次に何軒かチェーン店を持つ日本人経営のファスト・フード店に雇われました。地下でシェフがチキンをさばく隣で玉ねぎや人参の皮を剥くのが私の仕事でしたが、一日中、穴倉のような場所で働かされて気分が滅入っているところへ、私より多少、年齢が多いだけの日本人マネージャーから筋違いの小言を言われたからカチンときた。最初はそれでも穏やかに話しているつもりでしたが、「アーギュメント」のこつを知らない私たちは、しだいに熱くなって、ほとんど掴みかからんばかりの喧嘩になった。辞めるしかありません。
言葉はふつう感情に従うと考えられているが感情を言葉で正確に表現することはむずかしく――興奮しているときはなおさらで――ときには言葉が感情と抜きつ抜かれつしながら相手と戦う。「アーギュメント」がうまくゆくはずがない。「アーギュメント」を成功させるコツは、言葉と感情を理性の管理下におくことが必要で、まず理性に感情の爆発を抑える役目を果たさせて、言葉もよく練ったうえで口にする。アメリカ人が「アーギュメント」が上手なのは、子供のときから自己主張することを学び、反対意見に出会ったときの、客観的、多角的に見る訓練を積んでいるからで、言葉は攻撃的でも感情は意外と冷静です。その証拠に「アーギュメント」が終わったあと握手するか抱き合って仲直りする。アメリカ人の「アーギュメント」は一種のゲームだ、と私に教えてくれた外国人がいたが、なるほど、それくらいの感覚で相手と口論しなければ、妥協点を見いだすのはむずかしいかもしれない。(ニューヨーク大学で勉強した英語のクラスの初日、「君たちがアメリカで最初に学ばなければならいのは、いかに上手にアーギュメントをするかだ。アーギュメントは、ほかのどこの国にもない、アメリカ独自の文化である」と説いて、クラスをふたつに分けて―たとえば喫煙派と禁煙派――アーギュメントの練習をさせた教授がいた。審判は教授で、自分たちの主張が正しいことを認めさせるような発言をした生徒には、“That’s good point!”とほめた。それまで「アーギュメント」したあと、仲直りしたり、キスしたりしている人たちを何度も見て、なんだろうと思っていたので目から鱗が落ちた気持ちでした。すばらしい教授でした。)
(次回は10月第2週号掲載)
〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。

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