日本クリニック「医療の時間」第40診
皆さんも運動をする前は、昔からストレッチをすることが重要だと教えられてきたかと思います。しかし、この重要性の根拠やメリットは何でしょうか。実は、運動前後のストレッチに関して、今まであまり科学的な研究は行われておらず、今も運動の性能、スピードや強度を向上させるかについては賛否両論です。
驚くべきことに、今年発表されたいくつかの研究報告からはストレッチが実は運動にマイナスの影響を与える可能性があることが判明しました。実際に最近は多くのスポーツインストラクターが、スポーツ選手に運動前のストレッチをやめさせています。そんな中、直近の米国スポーツ医学学会の研究発表で興味深い結果が報告されました。
報告によると、静的ストレッチ(筋肉や筋を伸ばした状態を保つストレッチ)は運動に重要な役割があるが、その鍵となるのは時間であることが判明したとのことです。調査ではストレッチ時間を四つに分け研究が行われました。
(1)30秒以内 (2)30秒〜45秒
(3)1分〜2分 (4)2分以上
結果はそれぞれ、以下のようになりました。(これらの結果は各部位のストレッチと運動パフォーマンス=持続力、スピード、パワーなど=に対してである)
(1)と(2)は運動パフォーマンスに何の悪影響ももたらさなかった。
(3)はパフォーマンスに悪影響をもたらした。2分近くになるほど結果はさらに悪くなった。
(4)はパフォーマンスに悪影響をもたらしたが、時間が長くなってもそれ以上の悪影響は見られなかった。
これらの結果からは60秒以内のストレッチは、特にやめる必要性がないことが分かります。私個人の意見としては、週3〜5回のストレッチは、運動の効率やコントロール能力向上が期待できると思います。特に野球やゴルフなどは、ある程度の柔軟性が必要なため積極的に行うべきでしょう。また柔軟性を向上させることは間違った運動フォームを修正することも期待できるので、ケガのリスクも減少させるでしょう。私の要約は以下の通りです。
〈運動機能向上のための要点〉
(1)最低でも15〜30秒間行いましょう。それ以下の秒数では十分な柔軟性は得られないでしょう。ただ30秒以上では一層の柔軟性は得られないので必要ないでしょう。
(2)ダンス、器械体操や水泳などのスポーツにはとても重要です。
(3)ランニングなどの関節や筋肉に大幅な動きが必要のないスポーツでは、関節の安定性が重要となるので、ストレッチによる柔軟性の向上は特に必要ないでしょう。
〈ケガの予防のための要点〉
(1)疫学的研究からは、有酸素運動を定期的に行っている人が最も筋肉、腱(けん)や靱帯(じんたい)のケガのリスクが少ないことが判明しています、ストレッチよりも有酸素運動を積極的に行った方が良いでしょう。
(2)エキセントリック収縮(筋肉を伸ばす動きのストレッチで、例えば腕立てや、鉄亜鈴を引き上げた後の下げる動作などのこと。伸張性収縮ともいう)のストレッチ運動は疫学的に見て、ケガのリスクを下げることが研究から判明しています。エキセントリック収縮を十分に行いましょう。
運動前のストレッチについてはいろいろと分かってきましたが、運動後の効果についてまだまだ研究不足の状態です。今後さらなる研究調査が期待されるでしょう。
(参照:米国スポーツ医学学会研究報告)
(次回は9月第4週号掲載)
〈今回の執筆者〉ケン・ヴィターレ医師/Kenneth C. Vitale, MD
日本クリニック/15W 44th St. 10FL. NY,NY 10036
スポーツ医学、理学医療科、リハビリテーション科。