乳がんの罹患リスク

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乳がんと戦う10

アルコールは発がん性物質という認識が広がる新時代に突入(続)

「米国最先端臨床現場から」海外治療コンサルティングリポート 第141回

米国の女性間で最も多く診断されている乳がんについて書いてきているが、現在、米国対がん協会(American cancer society)が挙げている明確な2つの種類の罹患リスク、変えられないリスク要因と変えることができるリスク要因のうち、変えることが出来るリスクについて昨年、2024年に説明した。その中の項目の一つとして、米国対がん協会が発表しているアルコール摂取と乳がんとの関連性があると説明し、今年、25年に入って、米国公衆衛生局長官がアルコールの瓶ラベルに、発がん性物質であるというラベルの設置を求め、メディアで毎日のように報道が開始されたことを前回=5月3日号掲載=、説明した。

しかし、この動きの認知と普及は簡単ではない。医療関係者レベルにおいてでさえ、この関連性の有無について議論されている。アルコールとがんとの関係性を基礎に、アルコールががん物質であるという警告ラベルの設置に関するニュースが連続して語られた1月以降、まるで語ることを制限されたかのように、完全にニュースから消えたのである。この動向について詳しく説明したい。

アルコールの瓶ラベルの警告の提案は、去年24年9月に、米国対がん協会が新たに、がんとアルコールの深い関係性を示したことから始まる。これは、この数十年に亘って、50歳以下の若い世代が、乳がんと大腸がんに罹患する確率が上がっている統計が出ており、その原因、理由の一つとして若い成人の飲酒が示された。近年、医療の進歩により新しい薬品も開発され、がんによる死亡率が減少しているにも関わらず、発症は以前より増えており、ジレンマが生じている。

以前のたばこの状況と同様、アルコールががん物質である、という研究、概念に関して、議論が終結しない。これは、経済(商業)とも関連していることもある。また、以前、赤ワインは心臓に良いという研究や議論も存在し、適度なアルコール摂取は、健康に良いという概念が普及しているためだ。しかし、24年8月に、英国の13万5000人を10年間に亘り調査した結果が発表された。この大規模な研究では、この適度なアルコール摂取が健康に良い、という結果は見られず、アルコール摂取を習慣とする層と比較しても、心臓病の罹患率においてなにも違いがないことが示された。

(次回=9月6日号掲載=に続く)

【執筆者】清水直子しみず なおこ) 学習院大学法学部卒業、コロンビア大学で数学を学び、ニューヨーク大学スターンスクールオブビジネスでMBAを取得。マウントサイナイ医科大学短期医学スクール修了。メリルリンチの株式部で活躍し、2003年さくらライフセイブ・アソシエイツを設立。

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