ワーク・スケジュールについて(1)
「HR人事マネジメント Q&A」第1回
HRMパートナーズ社 副社長及びパートナー 上田 宗朗
これまでに弊社が寄稿してきたコラムは「マネジメントへの手紙─マネジメント・コンサルタント/プロフェッショナル・コーチの視点から─」と題し、マネジメント層を啓蒙する内容を綴って参りました。また、直近の幾号かでは「オフィス再開へのプランの再検討」を主に取り上げてきました。勿論、コロナ禍が世界中の企業に与えた影響は計り知れず、先の見えない時代であって猶、近い将来に焦点を当てて引き続き考察し続けるべきではありますが、周囲には類似の題材を扱った人事関連記事は数多あり、記事内容が重複してしまう可能性も高いので、弊社としましては今号以降は、今一度、多くの企業が以前から困っており、それがコロナ禍でより浮き彫りにまたは噴出した課題および疑問に応えていきたく、コラムのタイトルを端的な「HR人事マネジメント Q&A」に変えることに致します。
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今回、その「HR人事マネジメント Q&A」の初回として取り上げるのは、多くの企業から常に問い合わせを頂き、その質問数も相当数に上る、ワーク・スケジュールあるいはワークスタイル…両者は密接に関わっていますが…これ即ち、働かせ方・働き方と言い換えても良く、そのうちのワーク・スケジュールについてを数回シリーズで取り上げます。
雇用主側からは、「コロナ禍で仕事が減ったので、従業員の就労時間を40時間から30時間または30時間未満としたい」「自宅勤務を許可したは良いが、託せる職務に限りがある」「仕事量が減ったので、そのポジションを廃止したいが、ポストコロナ禍では人手不足になることを見据えれば、解雇せずに就労時間数を減らすなどしてそのポジションを温存しておきたい」「従業員が出勤を嫌がるので、1日8時間・週5日勤務から1日10時間・週4日勤務に変更することも考えたい」との相談が寄せられる一方で、雇用主側が懸念する従業員側の想いには、「優秀な従業員が自宅勤務を機に遠方に引っ越したいと言ってくる」「自宅勤務と出勤の割合は今のままの6対4を維持すべきだと、これ以上の出勤を嫌がる」「出勤を無理強いすれば自宅勤務に慣れた従業員の中から転職を考える者も多く出てくるだろう」「自宅勤務を認めるのならば、Make Up Time制も柔軟に認めるべきだ」などが挙げられます。
これらのうち、「1日8時間・週5日勤務から1日10時間・週4日勤務への変更」を模索されるに当たり、先ず、このような異なる就労形態を設定することをAlternative work schedules(代替勤務スケジュール)と呼びますが、これは何も最近の流行りではなく、たとえば、1994年1月にカリフォルニア州ノースリッジで地震が発生し、ロサンゼルスダウンタウンへ向かう幹線フリーウェイが分断されて通勤が困難になった時なども、自宅勤務と共に、1日10時間・週4日勤務形態が推奨されたこともあります。
このAlternative work schedulesは、週休3日となるわけですから、仮に、大半の従業員が好み且つ適切な方法で導入されれば従業員をよりやる気にさせるカンフル剤ともなりますが、大半の州が連邦法に則って週40時間以上働いた場合に超過分に1.5倍の賃金を払うとしている中、少数の州では1日8時間(または10時間・12時間)を超えた場合でも1.5倍の賃金を払うなど独自の州法を備えていたり、ワーク・スケジュールの変更には対象従業員による投票を条件付けしている州もあったりと、すんなり変更できるわけではありません。従って、検討される前に、一先ず、御社が所在する州の残業代に関する法律を確認してみてください。
(次回は6月第4週号掲載)
〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう 富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。