〈コラム〉在宅勤務で生じる余計な出費は経費として認められるか(2)

0

ワークスタイルについて(5)

「HR人事マネジメント Q&A」第11回
HRMパートナーズ社 副社長及びパートナー 上田 宗朗

今回は前回=2月26日号掲載=の記事の続きとして、在宅勤務で生じた出費は経費として認められるかについて解説します。

頓にパンデミック後に巷で多くみられる光景として「普段出勤する時間に家にいることで余計に電気代がかかる。電気代は経費扱いにすべきだ」とか「やっとさえ狭い屋内に仕事スペースを設けるのは難しい。少しでも快適に職務を行う上で機能的でこじんまりした机と疲れにくい椅子を買いたいので、その分を経費として認めて下さい」などと従業員側が会社に対して言ってきたならば、会社は内心「何を言ってる!? 逆に食費やガソリン代の出費が抑えられているではないか!」と返したくなるのは人間心理としては道理でしょうし、皆さんが会社側の立場でもそう思うでしょう。

先ずは経費支払い是非の答えに触れますが、前回記事でも触れましたように「雇用主は従業員の業務遂行上必要な経費の負担を行うべき」と経費支払いについての基準を法制化済みの州が幾つも存在し、またそのようなトレンドゆえ、会社が、在宅勤務を行う従業員の一切の経費の負担に応じないというのはナンセンスだと言えることです。

従って、仕事を行う上で発生した経費を負担することは必須と言えますが、但しそこから踏み込んで経費対象とする線引きをどこに置くかは企業側の判断が問われる場面です。即ち、余りに厳しく経費対象の選別をしてしまうと、今度は在宅勤務を継続できると喜んでいる従業員のやる気に水を差す事になってしまいますし、そこから更に失望されて職探しを始められてしまう事にもなり兼ねない。よって、そこは法や横並びで判断するよりも会社側の情状なり従業員を繋ぎとめる保留策によるところの判断に期待したいところです。

ところで前回の記事の結びで私は「職務遂行に必要な机や椅子などのビジネス家具類」…単に家具類とは書かず…敢えて「ビジネス家具類」としました。繰り返しになりますが、幾つかの州では「雇用主は業務遂行上必要な経費の負担を行うべき」とし、更に諸州では「雇用主は合理的な観点で従業員の経費を管理するよう取り決めた方針を設けるべき」だとお知らせしましたが、ポイントは「負担を行うべき」や「合理的な観点」の部分です。これらは経費として認めるべき判断基準を明瞭に定めていないということであり、会社側の事情や判断によって細部がまちまちな解釈が可能であることを表していますが、少なくとも「ビジネス家具類」と定めるだけで、他の生活用家具とは一線を引くことができますし、またたとえビジネス家具類である机や椅子であっても、仕事以外の目的で使用できるものであれば、必ずしも会社側が全額負担する必要もありません。

(次回は4月23日号掲載)

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう 富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

過去の一覧

Share.