ワークスタイルについて(6)
「HR人事マネジメント Q&A」第12回
HRMパートナーズ社 社長 上田 宗朗
前回=3月26日号掲載=の記事で、従業員が在宅勤務をする上で発生する出費が経費として認められるかについては、会社側は「ビジネス上の理由」から一貫性を以って経費対象の線引きをするべきだとお伝えしました。また、会社側が負担するべき基準を設ける上でのポイントは「合理的な観点」だとも書きました。「ビジネス上の理由」と「合理的な観点」は一見して同じ意味で捉えるかもしれませんが、「ビジネス上の理由」の方はビジネスを行う上での要・不要を基に線引きするものであるのに対し、「合理的な観点」の方は冷徹に判断するならば必ずしも経費対象にしなくて良いとの意味になります。
例えば職務遂行のための机や椅子は「ビジネス上の理由」から必要なものではあるものの、仕事以外の目的…たとえば生活する上でまたは趣味のため…でも使われるものといえ、そこに「合理的な観点」を働かせた場合、会社側が全額負担する必要がない(或いは部分負担さえしなくても良い)アイテムといえます。また携帯電話料金やWi─Fi代は、職務遂行において不可欠ゆえ「ビジネス上の理由」から払ってあげるべきではあるものの私用でも使われる故に、就労時間8時間分は即ち1日の3分の1に相当するため、「合理的な観点」から基本料金の30~50%を払い戻すと定めても良いわけです。
あと電気代は日中も家にいることで出勤していた時よりも確かに上がりはしますが、さすがにここに及んでまで負担してあげるならば、在宅勤務は旨味があり過ぎ、週に数回の出社でさえあれこれ理由をつけて出て来ない従業員も現れる筈。そうなれば企業の営業活動に支障さえ来しかねず、ならば通勤の負担分を何らかの形で補填してまでも出社を促す方向に考えを転じる企業も出てくるでしょうし、或いは正反対に電気代を払ってあげてでも雇用確保に努めたいと思う企業も出てくるなど、企業の現状によって対応が左右に大きく振れることになるでしょう。
ではプリンターはどうか? 前々回=2月26日号掲載=の記事で「私有車・携帯電話・PC及び周辺機器は既にコロナ禍以前よりそれらの大半が経費支払い対象にされている」と書きましたが、書類を印刷することが頻繁ならばもちろん従業員に購入させるか会社が貸与するべきです。但し最近はデータベースを共有化することにおいてオンライン上でセキュリティーを強化するべく、クラウド上で書類作成など全てを行わせ、クラウドシステムで作成された書類や文書などをダウンロード出来ないように設定しているところや、USBさえ使用不可に設定している企業も増えてきています。このようにセキュリティー強化の観点に立てば、プリンターを購入させてまで仕事目的でプリントアウトするべき類のものがあるのかないのか、こちらは今一度考察するべきでしょう。
(次回は5月28日号掲載)
〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう 富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。