人手不足(5)
「HR人事マネジメント Q&A」第17回
HRMパートナーズ社 社長 上田 宗朗
前回=8月27日号掲載=の締め括りに、「基本給は低いがボーナスが良い」とのこれまでの日系企業にありがちな募集条件ではそもそも求職者の検索初期段階で引っかかってくれるかどうかすら分らないこと、次いで小規模の在米日系企業ならば市場平均給与値の25%~50%内に収まっていれば穏当と説いてきたがこれを中央値かそれ以上にまで引き上げる必要があること、以上のことから募集段階で魅力的に映らないボーナス額の比率を下げてでも基本給与ほか確実に支払われる報酬(額)を前面に打ち出せるよう施策すること、これらを急ぎ行うことが今の世情に合った喫緊の雇用促進策だと私見を述べました。
即ち、これまでは長期に亘って日系企業が踏襲してきた報酬提示のあり方…低めの給与、高めのボーナス、手厚いベネフィット、厳しくないノルマ…のままで良かったのが今ではむしろ人材採用の足枷にもなってしまっており、にもかかわらず依然として多数の日系企業は維持継続に努める由。
日系企業や日本人の心の中には「先ずは成果を上げよ、然すれば自ずと報酬がついてくる。天はちゃんと見ている」との考えが根強くあり、これに私も個人的には賛同しますが、実利優先の考えの米国ではよほど名の通った会社でない限りこの方針では現在進行形で起きている人材獲得競争には勝てません。
しかしながら「実際に本人が言うほど優秀なんだろうか?」と懐疑的になるのもこれまでの例からして仕方ないことだと理解はします。従ってここは米系企業の如く高値でも採用する決定を下し、当人の職務遂行能力に満足できないならば採用して間もない時期であっても解雇を決断するとの即時即断の割り切った方法に転換していくべきであるのは言うまでもありません。但しこのことを実践するには先ず(日本の)親会社を説得しなければならず、それにはニュース記事やサーベイ結果などを報告し続け常日頃から米国の近況を知らしめておく周到さを要します。何故なら直近に採用した従業員を短期間のうちに解雇することは、担当した駐在員自らの面接採用能力が疑われるか或いは失敗したとレッテルを貼られかねないからです。
(次回は10月22日号掲載)
〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう 富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。