〈コラム〉雇用維持と採用促進策

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人手不足(4)

「HR人事マネジメント Q&A」第16回
HRMパートナーズ社 社長 上田 宗朗

前回(7月23日号掲載)も前々回(6月25日号掲載)に続いて大きく脱線してしまい「人口移動の原因」を考察してみましたが、今回からはいよいよ本丸である「雇用維持と採用促進策」に踏み込んでいきたいと思います。

ところで遡ること数カ月前、台湾の半導体製造大手企業であるTSMCを日本が官民一体となって後押しし、同社が熊本県に製造拠点を設けることになったというニュースが出たのを皆さんもご覧になったと思いますが、幾つかの記事が報じたところによれば、同工場が2024年の工場稼働に向け「新規採用人数が1200人・初任給が28万円」で採用活動を始めたようで、これは日本経済にとってかなりスケールの大きな話だと感じました。

唯、同社の進出に九州経済界が期待を寄せる一方で、地元産業界の間では同社の進出により人材獲得が一段と難しくなるとの懸念が広がっているとの話は正しくその通りだと思います。これは日本に先んじて米国でも同じことが起きており、郊外または僻村にアマゾンの倉庫が設けられ、周囲の時給が一気に跳ね上がる現象が米国内の至るところで起きているのはご承知の通りです。

製造業種を除き、これまでの在米日系企業は歴史的にみても「低めの給与、高いボーナス、手厚いベネフィット、厳しくないノルマ」という体の企業が多かったのですが、健康保険代の高騰により従業員の拠出額を上げざる得ない企業が増えたこともあり、ベネフィットについては日系企業の優位性は以前より下がっている…それどころか米系企業の中には奨学金ローンの肩代わりやフルリモートワークを打ち出すところも現れるなど…益々不利な状況になっていっているのが実情です。

またボーナスは基本給以外の変動報酬であるため、雇用主側としては報酬の調整がし易いものの確実に得ることのできるインセンティブプログラムでない限り、求職者にすれば「企業の利益が良かった場合のおまけだろう」という見方が強くあります。これは人材募集サイトの検索条件が専らベースサラリーが主であるため、「基本給は低いがボーナスが良い」とのような日系企業にありがちな募集条件だと、求職者をしてそもそもの検索絞り込み段階で弾いてしまうことが多く、これらを改めない限り、いつになっても人員募集の時点での日系企業の優位性が高まることはありません。

あと、ベースサラリーについて弊社では過去に「小規模企業は市場平均給与値の25%値から中央値の間に収まれば妥当」と説いてはきたのですが、昨今の状況を鑑みるに出来る限り中央値に近づけるかそれ以上にまで引き上げる必要があります。即ち、募集段階で魅力的に映らないボーナス額の比率を下げ、その分を基本給与額に上乗せするなどの対策を検討するべきで状況にあります。

(次回は9月24日号掲載)

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう 富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

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