乳がんワクチンの今後(3)

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乳がんと戦う15

「米国最先端臨床現場から」海外治療コンサルティングリポート 第144回

乳がんのワクチンには予防と治療のための
2種のワクチンが存在する

 米国の女性の間で最も多く診断されている乳がんについて、2年継続して連載してきたが、昨年、2025年から乳がんに対するワクチンの臨床試験が進み、明るい展望であるとメディアで多く取り上げられていることを説明してきた。今回は、そもそも乳がんのワクチンとは何を指すのかについて説明し、乳がんシリーズを締めくくりたい。

 通常、ワクチンとは一般的に罹患しないための予防のためのものと理解されているが、ワクチンの本質は免疫に覚えさせる、つまり抗原特異的免疫応答を誘導するという仕組みである。感染前に使う場合は「予防ワクチン」であり、既存の疾患に対して使用する場合は「治療ワクチン」となる。
治療目的とすれば薬ではないのかと考えられるが、薬との相違は、通常の治療薬は薬そのものが直接がん細胞に作用する仕組みになっているのに対し、治療ワクチンは直接がんを攻撃するのではなく、免疫システムを訓練する仕組みとなっている点にある。つまり、対がん治療である化学療法の抗がん剤などは薬そのものががんを攻撃するが、治療ワクチンは患者自身の免疫によってがんと闘うことになる。

 現在、この乳がんの2種のワクチンの研究および臨床試験が行われているが、前回説明したように、乳がんは患者自身の体内から発生することから、体外からの異物を攻撃する仕組みとは異なり、乳がんワクチンの開発は簡単ではない。その結果、進歩は報じられているものの、現時点では予防・治療を目的とした乳がんワクチンのいずれも、米国食品医薬品局(FDA)から承認されているものは存在しない。メディアでは大きく報道されているが、実際にはワクチンがいつ利用可能になるかは予測できず、道のりはまだ長いというのが現実のようだ。
世界保健機関(WHO)の2026年4月の統計によると、世界の女性の間で最も罹患率が高いがんである乳がん。ワクチンが開発され、次世代の女性にとって朗報が届く日が来ることを願う。

 (次回=7月4日号=に続く)

【執筆者】清水直子しみず なおこ) 学習院大学法学部卒業、コロンビア大学で数学を学び、ニューヨーク大学スターンスクールオブビジネスでMBAを取得。マウントサイナイ医科大学短期医学スクール修了。メリルリンチの株式部で活躍し、2003年さくらライフセイブ・アソシエイツを設立。

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