人手不足(38)
「HR人事マネジメント Q&A」第50回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗
前回=6月28日号掲載=までの直近4回の記事では「天候不良や災害によるオフィス臨時クローズ」を取り上げましたが、本年下半期に入って初めて寄稿する今回は少し話題を変え、米国での雇用情勢と今後の勤務形態の動きを共有したく思います。
先々月5月末、目を引くとある人事関連の記事がありました。それは同月4日の米国就労者18歳以上1600人を対象にした勤務形態に関する調査結果を扱ったもので、平均的な就労者の実に85%が現在は通勤(出社)しているとの興味深い内容でした。
5年前の2020年当時、各州政府によって3月中旬から外出禁止令が出されたことにより1カ月後には早くも米国就労者の52%が在宅勤務形態に切り替わり、それ以降も在宅勤務者が一定数増えたことを鑑みれば、今は19年当時の勤務形態への大きな揺り戻しが起きており、ここ数年のあいだ人気を博した在宅勤務は廃れてきたことになります。同調査は更に「月曜日から木曜日に出社する割合が最も高く、金曜日にはその割合が低下し、週末の出勤率はさらに顕著に低下する」「平均的な就労者の平日の出社日数は4・7日」であることも示しました。
即ち、パンデミック後期から会社は段階的に出勤(の強制)を再開したものの、当時誰もが思案したワークライフバランスへの想い、それに会社側の雇用維持の願いが合わさって辛うじてハイブリッド勤務形態を保っているのが今の状況だと言えますし、更には在宅勤務制度以前から存在したコアタイム制度やフレックスタイム制度これらを拡張した「緩めのフル出勤」の勤務形態に立ち戻り始めているのだと言えるかもしれません。
同記事は続けて「この(出勤者増加の)調査結果はAM/FMラジオにとっても間違いなく朗報であり、Share of Earリポートによれば、広告付きラジオの車中での聴取時間は18歳以上に絞れば86%に達している」とも綴っており、会社側視点に立てば勤務形態がかつての平時に戻ったことが窺える調査結果だと言えますが、但しもちろんこの数値は業界によっても左右されますし地域によっての偏りもあります。
では以上のことを踏まえ、とりわけこれまで通り従業員に出社を強制しなければならないホテル業や飲食業などのホスピタリティ業界をはじめ製造業や倉庫業にて今後更に検討されるであろうことを考察するに、平時は元より週末や祝日に一定数の従業員に出社して貰わねばならない状況下で、割増賃金やベネフィット上の付帯特典など如何に設定し直すかという課題が生じて来る筈です。
(次回は8月23日号掲載)
〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう 富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。