〈コラム〉雇用情勢と今後の勤務形態(3)

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人手不足(40)

「HR人事マネジメント Q&A」第52回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗

前回─9月27日号掲載─の記事では、雇用減速が最近とみに顕著になってきている現状をお伝えしつつ、裏付け証拠として、求人件数・雇用数いずれも減っており対する新規失業保険申請件数が加速度的に増えていること。連邦政府職を解かれた数十万人をはじめとする労働者たちが新たな仕事を見つけられずに難渋していること。更に労働市場の冷え込みと移民政策の世界的な引き締めにより海外の求職者たちが米国を含む自国以外の仕事への応募意欲が低下していること等を書き連ねました。

これらに況して10月24日に発表された雇用関連データからは、7月・8月の雇用が低調だったことに加え5月・6月が当初報告されたよりも大幅に少ない雇用実績値に下方修正されたことを以って予想よりもはるかに速いペースで雇用が鈍化していることが示されました。

では9月はどうだったか? まだ正確な統計値は出てはいないものの失業率は4.3%で前月から横ばいとなる見込みであり雇用値の方も同じく前月から横ばいとなる見込みとのことですが、反面、連邦政府の雇用が更に減るであろうこと。プライベート企業の週平均労働時間が34.2時間でここ数カ月間は増えていないこと。年末に向けた雇用が増えてくる今の時期にあっても臨時雇用動向が引き続き減少傾向にあること。反対に企業が機敏性を求めたことで柔軟な雇用や契約社員(個人事業主)の利用が増えていること。それにエントリーレベルの職務とりわけ型に嵌まったルーチン的な業務内容においてAIや自動化ツールに置き換えられ始めている可能性があること。そしてこれらに政府機関の閉鎖により予定されていた(9月の)給与統計の発表自体が遅れていることが相まって幾重にも雇用不安が奏でられ、先行きを一層不安視させています。

ちなみに、米国労働統計局(BLS)が6月に出した本年3月時点のプライベート企業が支払う労働者総報酬は平均45.38ドル/時であり、内訳は、金銭報酬が平均31.89ドル/時(総報酬の70.3%)、福利厚生は平均13.49ドル/時(29.7%)となっています。また9月に出された予測値では平均時給は前年比3.7%の上昇が見込まれるとのことです。

これらを、前回の記事末尾「従業員の大方は会社側の是正可能な理由によって離職している実態」を伝えたWork Instituteによる昨年の離職理由順が、(1)キャリアパス関連(2)従業員個人および家族の健康問題(3)柔軟でない勤務形態(4)経営陣の行為行動(5)総報酬への不満─と照らし合わせてみると、SHRMエコノミストが謂う「競争力のある報酬パッケージと長期的なコストの持続可能性のバランスをとるために、賃金上昇と医療費の動向を注意深く監視することが雇用主にとって有益」は当にその通りと言え、不確実性が依然として高い今は、従業員が働きやすい環境をこれまで以上に提供することを模索するべきです。

(次回は11月22日号掲載)

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう  富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

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