倫理研究所理事長・丸山敏秋「風のゆくえ」 第132回
冬場になると日本人はよく風邪をひく。インフルエンザも流行る。しかし欧米では風邪をひく人は少ないと聞く。風邪の病原の一つにコロナウイルスがある。つまり日本人は毎年のように風邪をひくことで、コロナウイルスに対する集団免疫力を獲得してきた。だから今回のウイルス感染症による重症化率も死亡率も、欧米に比べて格段に低い。
風邪にはマスクがつきものなので、日本人にはマスクへの抵抗感が少ない。筆者はどうも好まないが、花粉症の時期や、乾燥した機内での長いフライトでは進んで着ける。コロナパニックになってからは、着用が義務化されているわけでもないのに、ほぼ100%の国民が家の外ではマスク顔になっている。
マスクの網目の大きさを考えた時、空気感染する病気であれば、マスクの効果はほとんどない。しかしコロナはおもに飛沫感染によるというので、マスクはかなり効果があると喧伝されてきた。しかし重症化しやすい基礎疾患の持ち主や高齢者への対応がしっかりできさえすれば、マスクもせずにコロナウイルスに暴露された方が、集団免疫力を高めて終息が早められる。スウェーデンのようなそうした感染対策を、日本でもアメリカでもとらなかった。
「マスクの着用は自由」と宣言されるときが、終息の目安といえよう。いつまでもマスクをはずせないと、とくに子供たちへの弊害が大きくなる。情緒的な発育を阻害するとか、酸素不足が脳の発達の妨げになるといった危惧は前々から呈されていた。
さらに加えて、感染症が専門の矢野邦夫医師(浜松医療センター)は、子供の時に感染すべき病原体に感染していない事態を警告している。なかでも「サイトメガロウイルス」に子供たちが感染していないのはゆゆしき問題だという。
子供の時に感染すれば鼻風邪ですむのに、成長して妊娠中に感染すると、胎児にダメージを与えてしまう(目や耳に障害が出たり小頭症になったり先天性風疹症候群のようになってしまう)。しかもその頻度は、先天性風疹症候群の数千倍もあるのだという。
ある場面には有効でも、違う局面になると無効どころか、害を及ばす行為がある。人命を守るための感染対策は必須でも、それがために経済が低迷して自殺者が急増するようではいけない。飲食店の休業補償に使われた莫大な政府支出のつけを、今は若者である将来の納税者に押しつけるようであってはならない。
異なる両面のバランスをとるのはとても難しい。恐怖心に覆われてしまうと、視野狭窄になり、別の局面が見えなくなる。誤りや行き過ぎを指摘されても、走り出した列車は容易に止められない。
COVID–19は未知のウイルスであったがゆえに、人類を恐怖のどん底に突き落とした。当初のパニックは致し方ない。しかしウイルスの正体が判明しても、今なお感染症レベルを2類にしたまま修正せず、医療逼迫を理由に厳戒ばかりつづけている無策ぶりには呆れる。春が来たなら、それにふさわしい衣替えをしなければいけない。
(次回は4月第2週号掲載)
〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。一般社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)ほか多数。最新刊『経営力を磨く』(倫理研究所刊)。