〈コラム〉光さす方向に歩む

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倫理研究所理事​長・丸山敏秋「風のゆくえ」 第98回

昭和天皇の崩御の悲しみの中で迎えた「平成」とは違って、新元号「令和」の発表に日本中が歓迎ムードに包まれた。すでに日本の新たな時代が到来したが、まだしばらくは「平成」の30年余りを回顧しつつ、仕事の上でも個人生活においても、しっかりと区切りをつけたい。

言葉の霊力(ことだま)を信じる者にとっては、不穏な内容を言語化することに抵抗があろう。だが現実を正視すれば、状況はかなり厳しく、近未来を楽観するなどできない。ここではさしあたり三つの大きな課題を示そう。

第1は、「平成」におけるいくつもの積み残しを国民が背負っていることだ。たとえば30年間で種々の対策や改革が取り組まれながら、ほとんど有益な成果が上がらなかった。その典型が少子化対策であり、郵政民営化をはじめとするアメリカ追従の制度改革である。

少子化対策が失敗したのは、託児施設の増設や子育て手当の充実といった福祉政策で、出生率は上がると踏んだことだった。若い世代が家族・家庭の意義を認識し、子育ての喜びを知らなければ、生まれる子供の数は増えない。「出産は苦しい」「子育ては大変」といった呪いの言葉ばかりの世の中を変えなければならない。

第2は、大規模災害への備えである。「平成」における2度の大震災や各地の自然災害で、国民の防災意識は高まった。しかし、のど元過ぎれば熱さは忘れられる。各家庭での最低限の備蓄すら、どれほど行われているであろうか。

日本はすでに1000年ぶりの地質大変動期に入っているという。2030年前後に南海トラフ大地震が85%の確率で起こる、と専門の研究者は言う。被害は東日本大震災どころでなく、死者32万人超と公表もされた。日本にとって壊滅的な打撃となる。対策はいまだ万全ではなく、常日頃から国民の自覚を喚起しなければならない。

第3の課題は、日本という国の根幹をなす「皇位継承」の安定化である。「平成」においてこの問題が議論されたが、悠仁親王の誕生で中断したままである。天皇の退位を決めた特別措置法は、「平成」の一代限りとされている。「令和」においてはどうなるのか。悠仁親王への帝王教育はどう準備されているのか。皇族の減少に歯止めをかけられるのか…。難題山積である。

短く見ても1300年を超える日本の歴史は、天皇(皇室)と国民で形成されてきた。姓を持たない天皇は、国民とは別格の存在である。今日では元首とされる日本国の中心は、一貫して天皇であった。そのことは「象徴」と表現された現憲法においても変わっていない。はたしてどうすれば、安定的な皇位継承が実現できるか。これも難題である。

「平成」最後となる宮中歌会始の儀(2019年1月15日)のお題は「光」だった。戦後に同じお題が3度目とは、まことに異例である。そこには、「光の予祝」を和歌に託して次の時代を切り拓きたい、との願いが込められていたのではないか。

たとえ状況は厳しくても、光のさす方向に歩いていきたい。
(次回は6月第2週号掲載)

〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)、『ともに生きる』(倫理研究所)など多数。

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