遺産相続の設計をする時に考慮するべき事項

0

口座の受取人を指名することが得策にならないことも

遺産相続の総合設計をすることの主な目的は、あなたの財産を、死亡時に最も簡単な手続きかつ最小限の納税義務をもって相続人に引き継ぐことです。納税義務を最小限に抑えるためには、複雑な手続きを要することがありますが、時によっては、節税のための複雑な手続きを踏まなくてもよい場合もあります。

銀行口座、証券口座、あるいは個人の退職口座等に残された資産を受け渡すのに、最も簡単な方法の一つは、これらの口座の死亡給付金の受取人を指名しておくことです。受取人が給付金を受け取るには、死亡証明書と必要申込書類を口座のある金融機関に提出するのが一般的です。もし受取人が指名されていなければ、裁判所での手続きが必要となり、相続人への資産の分配が遅れたり余分な経費がかかったりする原因となります。

日本人の非米居住者の受取人を指名する場合、手続きが複雑化されます。その理由は、ほとんどの非米居住の外国人は、米国における社会保障番号(SSN)や個人納税者番号(ITIN)を持っていないからです。米国にある口座の受取人となった場合、銀行は受取人のSSNやITIN等の情報を収集する義務があります。もし受取人がSSNもしくはITINを持っていない場合、金融機関は給付金の一部を差し控え、米内国歳入庁(IRS)に支払う義務があります。この金額は、SSNやITINを持っている場合の納税額より著しく上回ることがよくあります。

ITINの取得申し込みをすることは、非米居住者にとっては面倒なものです。W─7(IRS ITIN申請書)という書類に加え、申請者は身分証明書と非米居住者であることを証明する書類を提出しなければなりません。IRSは書類の原本又は謄本のみ受け付けます。謄本を発行しない機関は書類の原本を提出しなければなりません。書類原本をIRSに国際郵送することは、書類が返却されるまでに60日間かかることもありますので、大変心配でもあり、大きな不都合を生じることもあるでしょう。

申請者が居住国にIRSが認定する引き受け代理業者があれば、代理業者がITIN申請をする事もできます。代理業者は、プライベートの機関で、会計事務所であることが一般的です。代理業者は、IRSに代わって書類原本のチェックを行います。原本チェックはその場で行われるため、すぐに返却してもらうことができます。日本には、IRSの認定引き受け代理業者が数カ所あり、詳しい情報はIRSのウェブサイト(www.irs.gov/individuals/international-taxpayers/acceptance-agents-japan)をご確認下さい。

パスポートの原本チェックのものサービスは東京米大使館でも行っています。詳しい情報は東京米大使館のウェブサイト(jp.usembassy.gov/ja/services-ja/notarials-ja/certified-true-copies-of-foreign-passports-for-obtaining-an-itin-number-ja/)をご確認下さい。

場合によっては、口座の受取人を指名することが得策にならないこともありますので、遺産相続の総合設計をする場合は経験豊富なプロフェッショナルに相談するのが良いでしょう。

(弁護士 マシュー・プレソー)

(次回は8月第1週号掲載)

〈今週の執筆事務所〉

Miki Dixon & Presseau 法律事務所
122 East 42nd Street, Suite 2515 NY, NY 10168
Tel:212-661-1010
Web:www.mdp-law.com

(お断り)本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は弁護士・法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。

●過去のコラム●

Share.