「永野・森田公認会計士事務所 日下武」ビジネスのツボ 第64回
アメリカ、特にニューヨークでレストランを起業したいという相談は、個人、企業問わずにとても増えています。その背景には日本食ブームが一向に衰えないこと、日本と比べると比較的に高い値段で販売できること、日本に既存にあるチェーン店は、ニューヨーク店を開店することにより、世界的に経営しているというブランディングができることなどが挙げられます。日本食レストランの種類も「日本食イコール寿司」という時代とは違って、最近ではラーメン、居酒屋、焼き鳥などさまざまです。ニューヨーカーの日本食の印象は、お洒落、今風、味が良いととても良いものになっています。
レストランを企業するにあたり、法的に大切なのは会社設立になります。アメリカではいくつかの会社形態がありますが、最初にしっかり会社形態を選択しておいたほうが、税務面や裁判になったときの責任の範囲にとても影響があります。それではどのような形態が有利なのかというと私の見解では、アメリカ在住の一個人の方がレストランを開くときはSingle Member LLCを進めることが多いです。先にあげた税務面においてはパス・スルー課税と呼ばれる制度を使うことによって、法人から生じた所得については法人の段階で課税を受けずに出資者である個人の確定申告でのみ課税されるという利点があります。裁判になったときの責任の範囲についても、多くの州では法人の資産が賠償の範囲にとどまります。これを有限責任といい、Limited Liability Companyの名前の由来にもなります。
一方、日本企業が100%出資して、アメリカのレストラン会社を設立するときは、私の見解ではC corporationという形態を勧めています。アメリカに子会社を設立せずに日本の会社の支店として登録する方法もありますが、支店という形態では訴訟が起きたときに損害賠償が日本本社に及ぶことがありますので、この訴訟社会のアメリカではあまりお勧めはできません。さらに税務面でも日本本社がアメリカの税務当局の調査対象となるので、税務的にもデメリットになります。ただ、はじめにアメリカにC corporationを設立した後に、店舗を増やすときにそのC corporationの下にLLCを設立することは、税務面でも有限責任という意味でも効果があります。Holdingsというグループを作るときは、このような形態が多いです。
個人の方にはメリットも多いLLCを勧めていますが、銀行からのクレジットが低いなどのデメリットもありますので、個別に専門家に相談するのが好ましいです。
(次回は7月第2週号掲載)
〈プロフィル〉 日下 武(くさか たけし) 永野・森田公認会計士事務所NJ拠点マネージャー。大手日系食品商社での営業経験を生かし、顧客の立場になって、全体的なビジネス、会計、税務相談を受けている。メーカーからレストラン、リテーラーマで、幅広く顧客を持つ。
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