〈コラム〉「そうえん」オーナー 山口 政昭「医食同源」

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マクロビオティック・レストラン(30)

イミグレーションは人間の運命さえ変える。私の友達は戸籍謄本を見つけられて入国を拒否されました(永住権を申請するときに戸籍謄本が必要なのです)。実際そのつもりだったから彼らは正しかったことになるのですが不運だったとしかいいようがありません。メキシコから陸路で入国しようとして拒否された日本人もいます。働くつもりでいるのが明白だったからでしょうか。
私は運がよかったのか、ピンクの封筒にパスポートなどを入れられて別室に連れて行かれたことは何度かありますが入国を拒否されたことはありません。
成田の税関でも私は別室に連れて行かれました。三、四人のジーンズを穿いた若い男たちから調べられ、日記まで読まれました。麻薬を所持していないか調べたのでしょうが、私にそんな度胸はありません。まるで喜劇を見ているような滑稽さでした。それにしても男たちの態度はでかく、まるで私を犯罪者扱いでした。それでも私はおとなしくしていました。騒げば、それだけ不利になるからです。
税関は隠しカメラで見ているようで、不審者に見えるらしい私は、どこの国に行っても、よく足止めされます。中南米やカリブ海ではボタンを押させて、赤が出ると荷物をチェックされますが私が押すと必ず赤が出ます(そのせいで飛行機を逃したこともあります)。――絶対どこかで見ているはずだ。おれがもしその係りだったら、むしろ反対に一見、怪しそうにないやつの荷物をチェックさせるのだが。
空港に限らず役所や案内所や街で道を訊くとき、あるいは飛行機やホテルのチェックインなど、こちらで相手を選べる場合の基準は性別や年齢より相手の顔の表情が第一になる。顔は内面を映しだす鏡です。性別や年齢よりよほどたしかで、どの顔が親切に対応してくれるかと考えるのです。もちろん例外もいっぱいあります。やさしそうな顔をしているのに冷たかったり、むずかしそうな顔をしているのに親切だったりと。――私もだから、話しかけられやすいように、いつもやわらかな表情をしておきたいと思うのですが意識しているときはともかく、そうでないときは深刻な顔をしているときが多いようです。
(次回は7月第4週土曜日号掲載)
〈プロフィル〉山口 政昭(やまぐち まさあき) 長崎大学経済学部卒業。「そうえん」オーナー。作家。著書に「時の歩みに錘をつけて」「アメリカの空」など。1971年に渡米。バスボーイ、皿洗いなどをしながら世界80カ国を放浪。

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