〈コラム〉警告懈怠における「販売」業者の責任

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礒合法律事務所「法律相談室」

ニューヨーク州では、欠陥品を製造・販売する「製造業者」には欠陥に起因する怪我等への損害賠償責任が発生します。「欠陥」の有無は製造過程での偶発的な誤りによるものや、製造品の図案やレイアウト上の欠陥、また製造品が元来持つ使用上の危険性などの警告懈怠に基づき判断されます。
ニューヨーク州の場合、欠陥品への損害賠償責任は製造者だけではなく卸売業者(wholesaler)、小売業者(retailer)、及び流通業者(distributor)等の販売業者へも発生します。欠陥品の製造者や販売業者へ損害賠償を求める場合、厳格(無過失)責任(strict liability)に基づく主張と過失責任(negligence)に基づく主張の2種類が存在します。
「厳格責任」に基づき損害賠償を求める場合、原告は特定の販売品の欠陥(警告懈怠)により損害が発生したとい事実のみを立証することにより過失の有無や意図に関係なく製造業者だけではなく販売業者へも損害賠償責任を問うことが可能です。しかし販売業者へ「過失責任」に基づき損害賠償を追及する場合、原告は販売業者は販売品を物理的に所有している期間における通常の検査で発見されたであろう危険な状況に気づかなかったという事実を追加立証する必要があります。つまり警告懈怠により損害が発生したという事実のみで製造業者は言うまでもなく販売業者へも「厳格責任」が発生するが、通常の検査で発見されるべき欠陥を発見できず、結果的に警告懈怠へつながった、という追加立証がされた場合のみ販売業者へ「過失責任」が発生します。この「過失責任」における追加立証はあくまで販売業者に対する主張に該当し、製造業者への主張には該当しません。その理由は製造業者への過失責任は厳格責任と同等と法的にみなされるためです。
これらの法論に基づき、ツナ缶などの食料を販売するスーパーマーケットは仮に缶の中身に危険物が混入している場合やその販売品の過剰摂取が身体に危険を及ぼす可能性がある場合、その危険性の警告を怠り販売し、結果的に損害が発生したという事実のみで販売業者は(製造者と共に)厳格責任を問われるが、販売業者の日常的な(密封品のへ)物品検査においてその危険性が発見されることはないであろう場合、過失に基づく損害賠償責任は販売業者へは発生しません。
気をつける点として、通常は警告懈怠に基づき販売業者への損害賠償を求める場合、主張が厳格責任に基づくか、過失責任に基づくかに関係なく、原告はその警告の対象となる危険性が「一目瞭然であり、一般の消費者により特定の商品が元来持つ危険性だと認識されていないものである」という事実を立証する必要があります。このため仮に欠陥(警告懈怠)が存在した場合でも、その危険状況が一目瞭然である場合、販売業者には賠償責任は発生しません。
ニューヨーク州では判例法に基づき、鋭利な刃物の販売業者へは「販売品(刃物)は危険である」という警告を行う義務はなく、また家庭用プールの販売業者には「空もしくは浅いプールに飛び込むと怪我をする可能性がある」等の常識的に分かるであろう警告を行う義務はないとされています。チェーンソーの販売者も例外ではなく「始動中のチェーンソーに指を押し付けてみると指が飛んでまいます」という警告を表示する義務はありません。
(弁護士 礒合俊典)

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(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は1月第3週号掲載)

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