礒合法律事務所「法律相談室」
ニューヨーク州では「商業」物件賃貸契約における契約不履行を理由とした大家による契約途中解約の危機に陥った「商業」テナントには通常「Yellowstone Injunction」と呼ばれる一時停止命令を裁判所から出してもらうことが可能です。一度裁判所からこの停止命令が出されると、大家は不履行の問題が解決されるまで契約解約へ向けた各種法的手続きを含む一連の行為を一時的に中止する義務が発生します。この裁判所からの停止命令は制定法ではなく判例法に基づきます。契約解約の危機に直面したテナントがこの一時的な救済手段を裁判所から得るためには、(1)有効な物件賃貸契約が存在し、(2)商業テナントが大家から契約不履行に基づく契約解約の意図を明記した通知を受理し、(3)裁判所への救済処置を契約が実際に解約される前に申請し、(4)契約違反(不履行)を是正できる能力がある事―が前提となります。このため大家からの契約不履行に基づく契約解約の通知内に「5日以内に契約違反を是正できない場合、契約を解約する」と明記されている場合、裁判所から一時的な停止命令を出してもらうには5日という指定期間内に裁判所へ停止命令を申請する必要があります。その期間が過ぎてしまうと裁判所は停止命令を出すことは出来ません。またこの救済処置は大家からの通知が家賃滞納を理由とした「提訴」を意図する通知である場合、大家による提訴を阻止するために停止命令を申請することは出来ません。その理由は一時的救済処置はあくまで大家からの「契約解約」を意図する通知に該当し、家賃滞納を理由とした「提訴」の通知はあくまで契約解約ではなく滞納金の支払いを目的としたものであるからです。ニューヨーク州では契約書に特別な規定事項がない限り、家賃滞納という契約不履行の理由のみでは大家には契約を解約する権利は発生せず、あくまで裁判所を通じた強制支払いを目的とした提訴権しかありません。
仮に指定された是正期間が過ぎてしまい、一時的な停止命令を得ることが難しい場合、テナントは判例法ではなく制定法に基づく類似した一時停止命令を裁判所へ申請することも可能です。しかしニューヨーク州では制定法に基づく停止命令の場合、テナントは裁判所に停止命令が却下された場合の計り知れない回復不能の損害及び本案勝訴の蓋然性を提示する必要があります。 (弁護士 礒合俊典)
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(次回は8月第3週号掲載)
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