損害賠償責任を問われないケースとは
「アスリートはできる体に生まれる事が大前提」という「(努力云々より)生まれ持った才能が全て」という意見を述べ、努力をひたすら過大評価し、精神論に酔う人から非難を受けた日本人の元陸上競技選手がいます。実際プロのアスリートになることを夢見て毎日過酷で無茶苦茶な練習を行い、怪我をし、夢をあきらめる子供も少なくありません。スポーツには怪我がつきものですが、生徒がスポーツの練習・試合中に怪我をした場合、学校や監督・コーチは損害賠償責任を問われることはあまりありません。
ニューヨーク州ではスポーツに自主的に参加する人にはそのスポーツの固有リスクを十分認識しており、それを理解した上で参加しているという法的推定が存在します。このため多くの学生は特定のスポーツの参加中に怪我をし、その怪我となった原因・状況が想定内の固有リスクと見なされた場合、学校関係者等の第三者へ損害責任を追及することが出来ません。それ故事故の原因が参加選手により理解・想定された明瞭な固有リスクと見なされるべきか否かの判断が重要となりますが、怪我へ繋がる原因の多くが想定内の固有リスクであると法的に見なされるの通常です。例えば、野球に参加している学生の場合、「打者の手からバットがすり抜け守備陣へ当たる」、「走者と守備陣の激しい接触」等は野球特有の固有リスクと見なされます。これらは常識的にも理解できますが、仮に室内練習場において打者からの打球が投手の顔面へ強打した場合、たとえ「室内のライトが暗すぎ」、「背景の色彩により飛んでくるボールが見えにくく」、「投手を守るL字型の防球ネットが使用されていなかった」等の悪条件が存在したとしても、多くの場合その環境に自身をおいた野球経験の豊富な「投手」に問題があり、総合的な悪条件も野球に携わる際に自ら想定した固有リスクであると法的に見なされ、学校、施設関係者への過失は認められません。但し、仮に防球ネットを使用し、そのネットに欠陥があり、それが原因で選手が怪我を負った場合、ネットの欠陥事実は通常は想定内の固有リスクとは法的に見なされず、しかるべき第三者の過失を問うことが出来ます。
(弁護士 礒合俊典)
(次回は6月第3週号掲載)
〈情報〉礒合法律事務所 160 Broadway, Suite 500 New York, NY 10038
Tel:212-991-8356 E-mail:info@isoailaw.com