〈コラム〉“借家人による家賃減額の権利―Rent Abatement―

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礒合法律事務所「法律相談室」

ニューヨークなどの物価の高い都市では良くも悪くも不動産事がいつもホットです。不動産を所有し、物件を貸し出し、家賃収入を得ることで比較的簡単に金銭を稼ぐこともできます。
ニューヨーク市では住宅物件賃貸契約において大家(landlord)には借家人(tenant)に対し基本的に「(1)対象物件が人間の居住に適しており、(2)契約当事者が意図した使用に合った状況であり、(3)借家人が生命、健康及び安全の危機にさらされていないこと」という三つの義務が発生します。これらの義務は通称「居住性の保証(Warranty of Habitability)」と呼ばれます。通常は「エレベーターの欠如」「危険な状況での壊れた床のタイル」「下水溝の欠陥」「長時間のごみの放置」「長時間の熱、温水の不提供」などが義務の不履行の例に挙げられます。ちなみにこの義務は商業物件の賃貸契約には該当しません。また前記の悪状況の発生が借家人の過失行為による場合も発生しません。尚、「熱」の提供義務は大家にはありますが、「冷房」の提供義務は大家にはありません。すでに機能している冷房が契約締結時に存在する場合、または両者間で大家による冷房の提供が同意されている場合には当然提供・修復義務が発生します。
居住性の保証義務の不履行の場合、借家人には家賃の支払いを全面的に停止するか、家賃を部分的に減額する(abatement)権利が発生します。「大家に何回も××を修理するように頼んでも全く対応してくれません。だから修理してくれるまで家賃を払うのを止めます(した)」という借家人が実際多くいますが、この行為はほぼ間違いなく大家による「家賃の滞納による借家人の契約不履行」という損害賠償訴訟につながります。その際には「居住性の保証義務の不履行」は「抗弁(affirmative defense)」の一つとして提示される必要があります。通常は「(借家人による)大家への欠陥の存在及び修復依頼の通知」の有無が議論の一つとなるため、賃貸契約書に規定された手段による大家への通知が抗弁の重要前提になります。また欠陥の存在・大家による義務の不履行を証明するためにも、写真、記録、信頼の置ける目撃者等の物的証拠の準備、提示も重要です。
最終的に裁判所が居住性の保証義務の不履行があったとした場合、借家人へ家賃の20%の減額等が認められることが多くありますが、100%の減額(全額支払義務の免除)が認められることは稀です。減額率の判断は熱の欠如が5%、騒音が7%、破損タイルが10%、という区分けではなく、ケースバイケースで判断され、通常は欠陥が存在する物件の価値と存在しない場合の価値の差額という視点で判断されます。また、大家は通常特定の月々の家賃滞納金及び諸経費の支払いを要求してきますが、借家人による居住性の保証義務の不履行の主張はその特定期間ではなく欠陥・欠如が存在したそれ以外の法規期間までさか上ることが可能です。
(弁護士 礒合俊典)
(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は7月20日号掲載)


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