集夢計画100「愛・地球博から20年」

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アーティスト・林世宝「チリも積もれば芸術に」第105回

「平和行進曲II:智恵の門」制作中の筆者(2005年撮影)。高さ5メートル、幅3.5メートル、重さ3トン、「ヨシヅヤ」の愛知県内「津島北テラス」店で現在も展示されています

「平和行進曲II:智恵の門」制作中の筆者(2005年撮影)。高さ5メートル、幅3.5メートル、重さ3トン、「ヨシヅヤ」の愛知県内「津島北テラス」店で現在も展示されています

日本で開催された大阪・関西万博が大盛況で閉幕したのは喜ばしいかぎりです。万博と称される国際博覧会の目的は、文明と人類の智恵の記録、そして未来に希望を託すというもので、私は20年前に愛知県で開催された「愛・地球博」に参加しました。テーマは「自然の叡智」、環境保護、自然との共存など、私たちの生活に密着した題材を呼びかけていました。当時、私が構想していたのは、1997年に制作した「百万枚のペニー像:平和行進曲」に続くもので、数千丁の銃を素材にした戦争と平和の作品でした。この案、一度は通ったものの、防衛庁(現・防衛省)や警察に問い合わせた結果、日本では、使えなくなった銃でも、個人が数千丁を保有することは法を犯すことになりかねないので再検討してくださいと事務局から連絡がきたのです。そこで思いついたのが「ペンは剣よりも強し」。ペン(文字)を持って表現される思想や文学の力は、剣(武力)よりも大きな力を発揮するという意味を掲げ、ペンで凱旋門を作ることを再提案。日本のボランティアの多大なる協力のおかげで、予定より10万本多い30万本のペンが集まり、完成したのが「平和行進曲Ⅱ:智恵の門」=写真。

あれから20年、また「ペンは剣よりも強し」の信念で、2022年のウクライナの戦争の初日からペンを持ち、描いた作品は1500枚を超えました。絵を描いてこれまで集めたお金20万ドルを使い、ゴミ収集車や、孤児院や病院に医療品などを寄贈。そして今取り組んでいる「平和の鐘」は、愛知万博で叶わなかった本物の武器を使った作品となる予定です。ウクライナでは、武器の破片2トンを確保してくれていますが、戦争が終わらないことには現地での制作は始まりません。平和に向かって一歩一歩、私の平和行進曲は今日も続きます。

(次回は26年1月17日号掲載)

林世宝

〈プロフィル〉リン・セイホウ 1962年台湾生まれ。日本に留学中に日展、日仏現代美術展に出展し数々の賞を受賞。その後、渡米し、96年NY大学大学院修士課程を修了。NY現代美術展メディア賞、アジア傑出アーティスト賞などを受賞。世界中から素材を集める、ハート集結シリーズの代表作には「智恵の門(愛知万博)」、「ラブツリー(20万のおしゃぶり)」がある。NY在住。【フェイスブック

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