アーティスト・林世宝「チリも積もれば芸術に」第18回
集夢計画のTシャツを初めて買ってくれた李雪治(スージー・リー)は、死にそうな病気や事故に何度も遭いながらも、その度蘇ってきたご婦人。交通事故で杖をつく生活となっても、障害者として援助で生活することを拒み、病院で働いています。「何度も死にかけたけれど、その度に戻ってきた。私の命は拾ったようなもの。運命には、使用権はあるけれど所有権はないですよ」
彼女の言葉で蘇ってきた記憶は、27歳の時、日仏展で大賞を取り、授賞式にフランスへ招かれた時のことでした。テレビ局からのインタビューに、「あなたが見ている私は本物ではない」と言った言葉に記者は驚き、「では、本物はどこにいるの」と聞かれました。「この絵の中です。私の魂は絵にあり、この体は借り物」と答えたのを思い出したのです。
「運命に所有権はない」というスージーの言葉と、「私の体は借り物」とは、いずれもいつか返さなければならないところが共通していると彼女に話すと、「あなたは強いから、運命の所有権も上手く取ってきてよ」と笑われました。「それにしても、どうして私にインタビューなの」とスージーは聞きました。
「あなたは道で偶然会って、私のTシャツを買ってくれました。そのTシャツから、このドラマが始まったと思っています」。友人が紹介してくれたある会社の社長は、私の顔を見るなり、「依頼ばかり多くて、Tシャツは着る人がなく困っているくらいだよ」と言い、主旨を説明する間もなく、あきらめたこともあります。むしろ、これが普通の反応なのかもしれません。
人や自然との交流、助け合って人生を楽しむことを映画で表現したいのが集夢計画。余ったお金は人のためにという人生観を持つスージーは、この映画の主役の一人なのです。
(次回は11月19日号掲載)
〈プロフィル〉リン・セイホウ 1962年台湾生まれ。日本に留学中に日展、日仏現代美術展に出展し数々の賞を受賞。その後、渡米し、96年NY大学大学院修士課程を修了。NY現代美術展メディア賞、アジア傑出アーティスト賞などを受賞。世界中から素材を集める、ハート集結シリーズの代表作には「智恵の門(愛知万博)」、「ラブツリー(20万のおしゃぶり)」がある。NY在住。【フェイスブック】