アーティスト・林世宝「チリも積もれば芸術に」第65回
名月に雲がかかる、満開の花が風で散るように、絶好の機会には邪魔が入りやすいということわざに類似して「好事多磨」という中国語があります。最近起こったある事件を受け、友人が激励してくれた言葉です。
その事件とは、2年前から取り組んでいる「希望のツリー」にまつわるもの。日本の少年野球チームの協力で集められた2万5000個のボールがニューヨークに届いたのは昨年8月末、順調な滑り出しでした。同時期に台湾から届く予定だった土台は、電動式の設計に手間を要し、大幅に遅れて11月に到着。この時点で12月のクリスマス点灯に間に合わなくなりました。気を取り直して、2月の旧正月点灯を目標に急ピッチで制作を進めました。
土台は4段に分かれていて、一番上に2000個、2段目に3000個、ここまではスムーズに動いていました。3段目に4000~5000個のボールを取り付ける途中でリモコンが不能になり、原因を探るためエンジニアがツリーの中に入ってボタンを押した途端、ガチャンという大きな音がして土台が落ちたのです。硬式ボール1個約150グラム、枠を加えるとツリーの上部だけでも重量は1.5トン以上。幸い、エンジニアにけがはありませんでしたが、本当に怖い思いをしました。発表まで残り4日。招待状も出しています。何とかしなければ…。5人で試行錯誤を繰り返し、なんとか15フィートの高さまで上げ、固定して装飾。未完成の完成として2月4日の発表にこぎつけました。
問題が次々発生しても、誰一人離れることなく、冷静な判断と実行力で続けられたのは、「オリンピックに行きたい!」とボールに込められた夢のパワーが後押ししてくれていると思っています。「希望のツリー」は成長し続ける巨大な生命体。今後も変化を続けます。期待してください。
(次回は5月第2週号掲載)
〈プロフィル〉リン・セイホウ 1962年台湾生まれ。日本に留学中に日展、日仏現代美術展に出展し数々の賞を受賞。その後、渡米し、96年NY大学大学院修士課程を修了。NY現代美術展メディア賞、アジア傑出アーティスト賞などを受賞。世界中から素材を集める、ハート集結シリーズの代表作には「智恵の門(愛知万博)」、「ラブツリー(20万のおしゃぶり)」がある。NY在住。【フェイスブック】