集夢計画75「精誠所至、金石為開」

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アーティスト・林世宝「チリも積もれば芸術に」第80回

「Kenrock 2021」制作者:Ken Hiratsuka(写真:右から2番目)、筆者:左端場所:クリスタルパーク(写真提供:Hiro Nozuka)

「Kenrock 2021」制作者:Ken Hiratsuka(写真:右から2番目)、筆者:左端 場所:クリスタルパーク(写真提供:Hiro Nozuka)

霧雨の降る9月5日、クリスタルパークに集まった人たちは、完成した「Kenrock 2021」に魅了されました。

彫刻家Ken Hiratsuka氏との出会いは今年の早春。ニューヨーク市から1時間ほどの山の一画で、私は「ユートピア」、彼は「Kenrock 2021」を同時期に制作したのが縁の始まりでした。

敷地内にあるさまざまな石の中から彼が選んだのは2メートル以上ある巨大なもの。緩やかな斜面に足場を組み、ノミと金づちを使った手作業でコツコツと刻まれる線。1本の線は途切れることなく蛇行を繰り返し石全体に広がっていきます。硬い石相手ですから1日に彫れるのはごくわずか。それでも毎回見るたびに巨大な石は変化し、魂を入れられたかのように光り輝くようになりました。完成作を見て浮かんだ言葉が、タイトルの「精誠所至、金石為開(精神を集中して事にあたれば、どんな難しいことでも成し遂げられないことはない)」。日本語の「精神一到何事か成らざらん」と同意のことわざです。彼にぴったりだと思いました。

茨城出身で、1982年に武蔵野美術大学を卒業後渡米。世界20カ国以上に作品を残す偉大なアーティストでありながら、柔和な笑顔に気さくな人柄。酒を片手に、暖炉を囲んで夜更けまで語り合った時間は、まるで昔からの友人に出会ったように楽しいものでした。「他郷遇故知(故郷から遠く離れた場所で旧友に偶然出会う)」。これは、人生における「四喜」の一つと昔から言われるうれしい出来事。自然を愛し、自然をテーマに、みずからの手を使い作品を完成させていく手法は、私の作品作りにも共通しており、魂が共鳴したのかもしれません。優れた芸術は国境を超え、人種を超え、人に感動を与えられる数少ないもの。彼が次に刻むのは地球のどこの石なのか、楽しみです。

(次回は11月第3週号掲載)

林世宝

〈プロフィル〉リン・セイホウ 1962年台湾生まれ。日本に留学中に日展、日仏現代美術展に出展し数々の賞を受賞。その後、渡米し、96年NY大学大学院修士課程を修了。NY現代美術展メディア賞、アジア傑出アーティスト賞などを受賞。世界中から素材を集める、ハート集結シリーズの代表作には「智恵の門(愛知万博)」、「ラブツリー(20万のおしゃぶり)」がある。NY在住。【フェイスブック

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