アーティスト・林世宝「チリも積もれば芸術に」第99回
皆さん、ワールドトレードセンター(WTC)の十二支はご覧になっていただけましたか? ニュージャージートランジットと地下鉄をつなぐオキュラスで9月24日~10月7日の14日間、メトロカードで作った十二支像を展示しました。1日20万人の往来のある会場は、抱きついたり、腕を組んだりして写真を撮る人たちの笑顔であふれ、連日大盛況のにぎわい。この場をお借りして、ご協力いただきました皆さまに心よりお礼申し上げます。
現場でたくさんの質問を受けましたが、その中でも「30万枚のメトロカードをどうやって集めたの? 制作期間はどれくらい? なぜ十二支?」というのが多かったです。メトロカード収集は、2009年当時小学生だった子供たちと一緒に「夢の城」を作ったのがきっかけ。その年末に1000枚のカードを使って翌年の干支「虎威」を制作。飛んで2017年に「希望のツリー」のキャラクターとしてプードル犬の「ホープ」を発表。翌年、メトロカードの廃止が発表され、12体を完成させようと決意し、カード収集を再開。決して順調な道のりではなく、コロナ禍の時には落ちているものに触るのさえ恐怖でしたが、あきらめずに学校や教会、老人施設に収集箱を設置し、広く協力を呼び掛けて集め続けました。外での活動が制限されたコロナ禍の2年間はアトリエに籠り制作の日々。イベントが許可された2022年12月に十二支を発表しましたが、羊だけは白色のメトロカードが足りず未完成でした。今夏にWTCの展示が決まり、黄色のカードで仕上げた羊は、背の部分が黄色いチョッキを羽織ったような姿となり、くるっと巻いた毛が好まれ大人気。こうして、15年の歳月を経て12体が完成しました。
十二支の動物は数千年前からアジアに伝わる暦文化の縁起物。120年の歴史あるMTA、メトロカードはこれからその歴史の中に入ります。古文化とニューヨークの現代を融合させたメトロカードの十二支。次はアジアでの展示を目指します!
(次回は2025年1月18日号掲載)
〈プロフィル〉リン・セイホウ 1962年台湾生まれ。日本に留学中に日展、日仏現代美術展に出展し数々の賞を受賞。その後、渡米し、96年NY大学大学院修士課程を修了。NY現代美術展メディア賞、アジア傑出アーティスト賞などを受賞。世界中から素材を集める、ハート集結シリーズの代表作には「智恵の門(愛知万博)」、「ラブツリー(20万のおしゃぶり)」がある。NY在住。【フェイスブック】