筋膜治療で体の負担をほどいていきましょう

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年齢を言い訳にしていませんか?
瓜阪美穂「理学療法士が教えます」身体が痛い本当の理由【第31回】

先日とある40代の方と趣味の話題になった際に年齢が気になり膝が痛むのが怖いので、以前のようなランニングは止めましたと聞き驚きました。皆さんは年のせいで昔のようにスポーツをすることを諦めていませんか? 原因が見つからず、痛みはごまかしながら生活するものだと勘違いされていませんか? 今回は体の問題や病気の原因、そして治療についてお話します。

体の問題は「メカニカル」と「ケミカル」の2種類の原因に分けられる

体の問題は、「メカニカル」と「ケミカル」の2種類の原因に分けられます。
一つ目の問題は体の構造の変化による「メカニカル」なものです。大きな視点から考えると、骨格や筋肉のサポートシステムがあります。キャンプの時のテントをイメージしてみましょう。テントを張る時には金属の軸があります。これが私達の体の骨格になります。その上に布がかかり、布を両側から均等にしっかり張るようにしてピンを地面に打ち込みます。これが筋肉になります。テントの片方だけを引っ張りすぎると傾いてしまいます。

これを体で考えると一部分の硬さによって体が歪みバランスが悪くなってしまっている状態です。大きな骨格や筋肉だけでなく、体の細かな場所でも同じようにアンバランスになります。小さな視点から考えると、骨がずれるとその隣にある動脈や神経やリンパ管が圧迫されます。そしてその圧力によって例えば動脈の血管の幅が縮み血流が悪くなり、動脈から臓器へ供給されている血液の量が少なくなるので臓器の機能が衰えていきます。

この一つ一つが「メカニカル」な仕組みで、一部分が崩れてしまうと正しい体の状態になりません。私達の体もテントと同じで、体を総合的に考えることでバランスを保っています。「メカニカル」な問題は大きな視点からも小さな視点からも体に影響を与えているのです。

治療の様子

治療の様子

「メカニカル」な怪我はモビリゼーションで治療

靭帯が切れたり、骨折した時など重篤な「メカニカル」な怪我は手術によって治療されます。しかし手術をするほどではない筋膜の癒着の問題は、実は多くの方が抱える痛みの原因となっています。筋膜は体中にある内蔵、血管、神経、リンパ管、骨格などを覆うように繋がり体を支えています。筋膜の柔軟性がなくなると伸縮機能のあるゴムバンドが凍って固まってしまうように、動くはずの部分の機能が失われます。この筋膜の柔軟性の有無はMRIやレントゲンには写らない上に、例え血液検査をしても硬い筋膜も柔らかい筋膜も同じ物質としてしか証明されません。そのため、理学療法ではゴムバンドを手で伸ばしてみるように、徒手療法でこの筋膜の癒着を診断してモビリゼーションなど「メカニカル」な治療を行います。

ホルモンや痛みの化学物質などのせいで起こる「ケミカル」な問題

そして二つ目の「ケミカル」な問題は体の中のホルモンや痛みの化学物質、ウイルスや菌などのせいで起こります。例えば甲状腺が弱くなったり、がんで甲状腺を切った方は甲状腺ホルモンを体自身で作れず、薬として甲状腺ホルモンを取ることで体のケミカルバランスを整えます。
しかし先ほどのように動脈の圧迫により甲状腺へ流れる血液の量が減少するとホルモンの生産力が衰えてしまうので、「ケミカル」の問題は必ずしも「ケミカル」な治療だけが必要とは限らないのです。

膝の怪我に見る「ケミカル」と「メカニカル」の問題

走った後の膝の怪我に対する治療を考えてみましょう。多くの場合はまず痛みを抑える薬をもらいます。これはひざの炎症を起こす化学物質を減らすための「ケミカル」な治療です。ただし、神経の圧迫によって神経から危機の信号として痛みが出ている場合もあり、それは血液中の化学物質による炎症の問題ではなく、神経の筋膜の「メカニカル」な問題なので炎症止めは効きません。
更に怪我の本当の原因は、筋骨格のアンバランスによってひざへ不均等な負担がかかっていることです。そのため、この問題には骨格の並びを正したり、筋肉の緊張を減らす「メカニカル」な治療を行います。体の重みがかかる圧力の分配を変えていく事ことで怪我は勿論治る上に、走り方が改善されるのでスピードが上がったりもします。

年だからと諦める前に「メカニカルな問題」を探ろう

つまり走った後に炎症が起こった際、「ケミカル」な方法で痛みを取り除くことはできても怪我の根本である「メカニカル」な問題が変わらない限り、怪我の状態を維持してしまうのです。「メカニカル」な問題が重なり、年齢と共に怪我として現れる確率は勿論増えていきます。
ただこの怪我のほとんどは潜在的な問題を一つ一つ治していくことで「年だから膝が痛む」「年だから当然怪我をする」ということはなくなります。原因が見つからず検査でも異常がないと言われた時こそ「メカニカル」な問題を探るべきです。「年だからしょうがない」と諦めてしまうことを一度考え直してみましょう。(次回は2019年2月2日号掲載)

瓜阪美穂〈筆者プロフィル〉
瓜阪美穂(うりさか みほ)  理学療法博士、整形臨床スペシャリスト。ニューヨーク州立大学ビンガムトン校を卒業後、南カリフォルニア大学理学療法博士課程を修了。ブロードウェイミュージカルのダンサーの理学療法士としても活躍中。米国の理学療法により、自身の身体に興味をもち、正しい動作を生活に取り入れることを目的に治療や指導を行っている。
★身体に関する皆様からの質問も受け付けています。
【ウェブ】https://omptny.com/ja/

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