子宮にもマッサージが必要

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〈特別編〉不妊や生理痛にはメカニカル治療

瓜阪美穂「理学療法士が教えます」身体が痛い本当の理由【第32回

体の問題は、「メカニカル」と「ケミカル」の2種類の原因に分けられると以前お話しました(2018年11月10日号掲載)。骨や関節、筋肉などの構造や動きに直接関係していないものは理学療法ではまず治療できないように思えるかもしれませんが、実は意外な所にまで良い影響を与えることがあります。婦人科系の問題で考えてみると、子宮や卵巣の筋膜の癒着がメカニカルな問題で、ホルモンバランスの乱れがケミカルな問題となります。この体の構造の変化による「メカニカル」な問題を取り扱うのが私たち理学療法士です。

骨盤のゆがみが卵巣や子宮の機能にも影響

例えば盲腸の手術をした人は、右側の下腹部に傷痕が残ります。しかしその傷痕は皮膚だけでなく、奥深く内臓にも手術の傷痕として残っています。この内臓の傷痕が右側の腰に癒着し、骨盤の正常な動きを妨げることが「メカニカル」な問題です。これによって骨盤がゆがみ、時間が経過するほど腰痛や膝の痛みなど、他の箇所の症状として現れてきます。もちろん骨盤がゆがむと自然分娩が難しくなったり、骨盤内の卵巣や子宮の機能にも影響します。実はこういった症状は手術直後だけではなく、10年、20年経ってからでも現れてくるものです。この癒着した箇所をほぐすことによって骨盤の動きが自然に戻り、足の動きも良くなり、関係ないと思っていた別の症状も完治されていきます。

不妊治療には体外受精や人工授精以外の方法も

不妊治療で行われる代表的な処置が、体外受精(IVF)と人工授精(IUI)があります。ホルモン注射で卵の量を増やしたり、受精した卵を体に再度入れて妊娠させる方法です。30歳以下の方の体外受精の効果は最大で40%ほどですが、40歳以上の方が人工授精を選ぶと成功率は2%になってしまいます。それでも他の治療手段が分からないため、治療費は高価にもかかわらず何組もの夫婦がこの方法を試みるのですが、実は他にもまだまだ手段もあることを知っていますか?

種まきは庭を整えてから

母体のケアをガーデニングに例えると分かりやすいかもしれません。庭つきの中古の家を買ったとします。花とフルーツを育てたいと思ったのに、古い家なので、庭にタイヤやゴミがあり、雑草も生えています。ここに種をまいても、残念ながらうまくはいきません。種に栄養がいくよう、まずはタイヤやごみを撤去して、庭を整えるところから始めます。そして土に肥料を与えたり、水をまいてから種まきをするのが成功の道のりですよね。

受精の前に卵管の曲がりの補正子宮への血流改善を

女性生殖器系の癒着や、傷痕をほぐして動きを滑らかにすることは、庭を整えることと同じです。卵管が曲がっていることで、卵が子宮まで通り抜けられないような問題はメカニカルな治療法が適しています。そして動脈の筋膜をほぐして、子宮への血流を良くすることが土に肥料や水をあげることです。この柔軟性のある子宮と、栄養が行き届いている環境で初めて「種」を植えることができます。

生理痛の問題もメカニカルの不具合で起こる

同じく、生理痛の問題もメカニカルの不具合によって起こります。月経周期は脳と卵巣など臓器のホルモンコントロールの正常なリズムによって成り立ちます。ところが、卵巣の働きが悪くなるとホルモンのバランスが乱れて、生理不順やイライラや無気力といったPMS(月経前症候群)などの症状が出てきます。この治療では多くの場合、ピルを摂取することでホルモンの量を強引にコントロールしますが、体に合わない場合は、にきび、欝(うつ)、体重増加などの副作用が起こります。これはホルモンの治療が咳(せき)止めのように症状にだけ影響を与えているからです。副作用を起こさないためには、やはりホルモンバランスの乱れの原因を見つけて正常なリズムに整えることがまず先になります。

母体の健康を整えることが優先

不妊も症状の一つだと思ってみるとやはり母体の健康を整えることがまず先です。大抵の不妊治療は卵のことを考えても卵の家のことは考えていません。メカニカルな問題を先に解消して体を整えることで不妊治療の効果も上がります。その上、赤ちゃんが出来たら子宮が広がってくる分、隣接している膀胱(ぼうこう)、直腸、小腸などの動きが滑らかになるほど胎児がのびのびと大きく育っていくことができます。

男性側の場合もメカニカルな治療で対応

女性の体に不具合がある場合だけでなく、男性側の治療でも薬に頼らずにできることは、たくさんあります。精子を作る流れの中で何か筋膜に不具合があったらそこを治療します。前立腺炎や勃起不全(ED)の場合も、これらは交感神経・副交換神経に影響されているものなので、自律神経に対するメカニカルな治療が必要となります。性行為による痛みや不具合など、骨盤に対するメカニカルな治療を行って、赤ちゃんができるまでのステップを一つ一つこまめにケアしていくことで体の自然治癒力を高めていきましょう。

(次回は5月11日号掲載)

瓜阪美穂〈筆者プロフィル〉
瓜阪美穂(うりさか みほ)  理学療法博士、整形臨床スペシャリスト。ニューヨーク州立大学ビンガムトン校を卒業後、南カリフォルニア大学理学療法博士課程を修了。ブロードウェイミュージカルのダンサーの理学療法士としても活躍中。米国の理学療法により、自身の身体に興味をもち、正しい動作を生活に取り入れることを目的に治療や指導を行っている。
★身体に関する皆様からの質問も受け付けています。
【ウェブ】https://omptny.com/ja/

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