〈Topic〉「KENKEN」パズルの生みの親 宮本哲也さん NJ・プリンストンで講演会

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拍手鳴りやまず、大盛況

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プリンストンでの講演会の模様

米紙「ニューヨーク・タイムズ」にも連載されているパズル「KENKEN」。米国だけで150以上の新聞や雑誌に掲載されているこの大ヒットパズルの生みの親で宮本算数教室の主宰者、宮本哲也さんが3月14日、ニュージャージー州プリンストンにあるプリンストン市立図書館(Princeton Public Library)で、講演会とイベントを行った。午前10時から始まった講演会は、立ち見が出るほどの盛況で、日本で生まれた「KENKEN」パズルの米国での人気の高さが垣間見られた。

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講演会のテーマは、「子供たちの“考える”姿勢の大切さ」と、それを手助けする宮本さん自らが考案したパズル、算数の問題について。
宮本さんがモットーとする、「教えない教育法」を紹介すると、観客の「それは不可能だ」との反応が目立った。そうした中、大人が子供にとやかく言うのではなく、「子供に考える環境を与え、それをただ静かに見守ることで、子供は勝手に成長する」という自身の考えを力強く説いていくにつれて、話に引き込まれ、相づちを打つ観客が増えていった。
また、「子供たちが興味を持つ問題を与えることで、それに没頭し、考える楽しみを知る」と話した。
東日本大震災の翌日、余震があったにもかかわらず、授業で問題を解いていた生徒らが、誰一人顔を上げることなく、黙々と目の前の問題に取り組んでいたという、先の言葉を裏付ける、自身の体験エピソードを紹介。生徒たちが夢中になって、宮本さんから与えられた問題に取り組む姿に深く感動したと話した。
約40分にわたる講演会が終わると、参加者から鳴りやまない拍手が宮本さんに送られた。
宮本さんは、「今までにない最高のできだった」と満足のいく講演会を振り返った。

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真剣に問題に取り組む参加者ら

講演会後は、「KENKEN」パズルを取り入れたコンテストが行われ、主催者側の予想を上回る人数が参加。子供だけでなく、大人や年配者まで、さまざまな年齢層が参加。「KENKEN」の人気の高さがうかがわれた。
コンテストは「KENKEN」を「解く部門」と「作る部門」の2部構成で行われ、「解く部門」はルールが簡単に説明された後、「10番まで解けた人は手を挙げてください」といつも通りの呼び掛けでスタート。参加者は、黙々と解き続け、スタートから35分経過すると、1人の女性が挙手し、見事全問正解。その5分後には別の女性が挙手、全問正解した。2人は、笑顔でメダルを受け取った。
引き続き行われた「作る部門」では、数字だけが書かれた用紙にブロックとその輪を書き込むというユニークなコンテストとなった。最初に宮本さんが「KENKENを作るのは簡単です。難しいのは答えが1通りしか出ないように絞り込むこと。これがとても難しい」と作り方を解説。スタートから5分すると、参加者の手が次々と上がり、宮本さんがKENKENのために特別に開発された解析ソフトに数字を打ち込んだ。参加者が固唾(かたず)を飲んで結果を見守る中、「正解が12通りあります。失格!」との宮本さんの声に、ため息が漏れ、続けて問題作りに没頭した。10人連続で失格するも、終了時間が近づいたときに、7歳の男児が問題用紙を提出、見事1通りの解答を導き出した。そのことが発表されると、「うおー!」といううなり声とともに割れるような拍手がその男児に向けて送られた。会場は一体となり、大歓声の中で最高の形でイベントを締めくくった。

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「強育論~The art of teaching without teaching」
学習は本能。どんな子でも必ず伸びます。親が余計なことをしない限り―。無試験先着順の入塾で首都圏のトップ校(開成、麻布、桜蔭、フェリスなど)に85%の進学率を上げている、カリスマ算数教室主宰による心と頭の教育術。(出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン)

講演会で宮本さんは、「自分以外の人間は、たとえ親でさえも自分の人生を盛り上げるための脇役であり、今ある苦しみ、失敗は人生の最後にある究極の成功への通過点にしか過ぎない」という意味を込めて、“自分だけの宇宙”を作っていってほしいと参加者にメッセージを贈った。(このエピソードは、宮本さんの著者本である「かけがえのないわたし」(ディスカヴァー・トゥエンティワン出版)で紹介されている)

今年、55歳にして日本での生活を捨て、ニューヨークという世界の中心でゼロからのスタートを切った宮本さん。その生き方はまさに“自分だけの宇宙”を迷いなく突き進んでいるようにみられた。
4月下旬にはマンハッタンに算数教室を開校する。「教えない指導法」が世界中の数学初等教育を変える。そのための大きな一歩が宮本さんによって踏み出されることに期待が掛かる。

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〈宮本哲也さんプロフィル〉
0404-19men-KENKEN_#みやもと・てつや 1959年大阪生まれ。早稲田大学第一文学部演劇学科卒。14歳のある日、自我に目覚め「今日から、後悔しない生き方をする」と固く決意し、大人の言うことに一切、耳を貸さなくなる。学校の定期試験、宿題を全て無視し、独学に励むものの高校入試に失敗し、三流の公立高校に進学。あまりの内容の無さに1年で中退し、3年間、自宅で独学ののち、早稲田に進学。新聞配達、自動車工場での車体組み立て、ファストフード店の清掃などを経て、塾講師になる。それまでの時間の切り売りのバイトとは異なり、深く興味を持つ。大学卒業時に「塾講師にはいつでもなれる」と離脱を試みるものの就職試験に全滅し、新卒で、当時、日本一の進学塾、TAPに入社。入社2年目に「この業界で世界一になる」と決意する。その後、SapiX横浜校初代教室長を経て、93年、横浜に宮本算数教室を開校。2009年、教室を日本橋に移す。15年、教室をマンハッタンに移し、現在に至る。

(「WEEKLY Biz」(ニューヨーク)2015年4月4日号掲載)

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