山本寛斎

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ごちゃごちゃ言うな!な世界なわけですよ(笑)

「ガチ!」 BOUT. 167

 

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日本を代表する世界的デザイナーであり、プロデューサーの山本寛斎さん。ニューヨーク・ファッションウイーク開催中の2月初め、「NIPPONISTA(ニッポニスタ)」プロジェクトとして、ニューヨークのソーホーに登場したポップアップストアで自身の作品を紹介。日本の良いものを世界に発信するという三越伊勢丹ホールディングス主催の同プロジェクトの趣旨にふさわしい登場となった。そんな寛斎さんに、日本のアートやニューヨークの印象についてお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

NIPPONISTAに参加、作品披露 

日本のセレクトしたファッションやアートなどを紹介するプロジェクト「NIPPONISTA」に寛斎さんが協力したのは、やはり日本のカッコ良さを世界にアピールする…。

寛斎 (さえぎって)いや、ファッションに限らず音楽や他の文化も含めてハナっからアメリカがお手本と思って前に進むやり方もあると思うんですよ。ただ、私の場合はアメリカやヨーロッパのモノを自分たちより優れていて尊敬してるっていう気持ちは元から全くないんですね。どっちが偉いとかスゴイとかではなく、全く異質な脳ミソの回路から生まれるものだから、彼らを意識してものを作るってことは一切してこなかったので、最初から大きな線を引いてます。(彼らのアートを見て)ビビ!ってきたことないですしね。日本のいいものはいっぱいあるわけで、それをこういう形で伊勢丹三越(ホールディングス)さんがサポートしてくださるのは素晴らしいことだと思ってます。

日本のアートが世界に通用するかしないか、という質問自体、愚問ということですね。

寛斎 通用するもしないも、させる気があるかないか。それだけの問題だと思います。

今回、出展されたこの衣装のコンセプトを教えてください。

寛斎 これはね、江戸末期の東北の刺し子で、特に藍染めがきれいでしょ。面白いのはね、ロンドンに行った時、この布(きれ)だけ売ってるのを見たんですよ。世界中のいろんな産地から取り寄せた古いコレクションとして売ってる店だったんですが、日本で手に入れた時より断然高いんですよ。布(きれ)だけの方が高いの。こうやって切って服にした方が安くなっちゃってるんですね(笑)。今はそれくらい(日本の古い布に)骨董(こっとう)価値みたいなものがあるってことじゃないですか。

日本人が思っている以上に欧米では日本のモノが高く評価されている現実もあるわけですね。

寛斎 でも、まぁ、一概に欧米と言ってもややこしくなるだけですよね。彼らそれぞれの生活習慣も価値観も違いますし、日本人だっていろんな人がいますよね。ただ、謙虚さとか以心伝心とか日本独自の美徳は総じて欧米では通じませんよね。例えば(こっちで)テレビCM見てても、ひたすら「安い! 安い!」の連呼ですよね。日本だと同じ化粧品でも、何ていうのかな、ほんわかと(イメージも)伝えるよね。それは(共通の認識を持たない)多国籍の人たち(が共存するこの国)では分かりづらいんだろうと思いますね。だから、こっちに来て、全てのスイッチを入れ替えなきゃね。“好き”とか“嫌い”とか“痺(しび)れる”とか“キレイ ”とか、そんな表現をできるだけストレートに言うようにしないとね。

来場したニューヨーカーにはこの作品を見て、何を感じ取ってほしいですか。

寛斎 最近、やっと私も英語をしゃべれるようになったんですが、でも、ファッションというのは、説明しなくても見れば分かる世界じゃないですか。「ごちゃごちゃ言うな!」な世界なわけですよ(笑)。これ(の素材)が何で出来て、どうなって、こうなってってそういうもんじゃない。言葉は必要ない世界ですから。だから英語がちっとも上達しないんですけどね。(笑)

ではニューヨークという街にどういった印象をお持ちですか。

寛斎 約40年間の私の活動のうち、前半がニューヨークコレクションとパリコレクションの参加(するための仕事)でした。あとマンハッタンにも(以前)二つの直営店もありましたから。だから、今回は私にとって1回離婚した女性ともう1回結婚するみたいな、そんな感じですかね(笑)。初婚じゃないんで、何か初々しく痺れるって感じじゃないかもしれないですね。

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出品作の前でポーズをとる山本寛斎さん=2月7日(撮影・工藤)

でも“キライになれない女性”なわけですね。

寛斎 そうかもしれませんね(笑)。まぁ、この街は昔っから、野望と志と才能を持った人が次から次へと世界中から押し寄せてきますから。次々、新しい物が登場することが伝統という街ですから。そういう意味ではクリエーターにとってはいつも新鮮な所だと思いますね。

最後に必ず、ニューヨークに住んでいる日本人に何かアドバイスをいただいているのですが…。

寛斎 うーーーん(熟考)…。でも、それって自分以外の他の方々を見る余裕があるってことですよね。私、ないんですよ(笑)。この街で、自分の作風を、あるいは自分の考えをどう目立たせるしか考えていませんから。

シビれます。(笑)

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是枝裕和監督が1面に掲載された本紙(2014年1月25日号)

寛斎 でもね、(本紙1月25日号を手に取り、表紙を見て)これ、是枝(裕和)監督のカンヌ(映画祭)のプレミア(試写の時)ですよね。私も観に行きましたけど、素晴らしかったです。(やったことに人は)励まされるんじゃないですか。あの時(カメラが来て、観客席の自分が)映ったから、一番大きい声で「ブラボー!!」って叫びましたよ(笑)。これが寛斎のスピリットの全てですよ。人種が違えど、この街は年齢も性別も宗教も超えて、“いいものはいい!”と認めてくれるわけだから。ニューヨークはそんな街なんだから。

山本寛斎(やまもと かんさい) 職業:デザイナー/プロデューサー
1974年から92年まで、パリ、ニューヨーク、東京コレクションに参加。その後、ファッション・デザイナーの枠を超え、プロデューサーとして、93年モスクワ、95年ベトナム、97年インドなどを皮切りに、世界各地で大規模なイベントを開催。2013年11月には、デビューの地であるロンドンでファッションショーを開催。ロンドンでのショーが世界的な反響を呼び、レディ・ガガへの衣装提供、伊勢丹でのPOP UP SHOPなどのファッションプロジェクトへと発展した。14年初秋には、トルコ、イスタンブールで、日本・トルコ外交関係樹立90周年を記念する友好イベントを企画中である。成田新高速鉄道の特急「京成スカイライナー」新型車両の内装・外装のデザイン(2010年度グッドデザイン賞、2011年度ブルーリボン賞受賞)。
公式サイト:www.kansai-inc.co.jp/

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2014年3月1日号掲載)

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