【独占インタビュー】阿部 寛

0

BOUT. 309

俳優 阿部寛に聞く

今作で、久しぶりに部活動のような高揚感を味わえた

「スター・アジア賞」NYで受賞

映画『ミッドナイトスワン』を手掛けた内田英治監督の新作『異動辞令は音楽隊!』(日本公開8月26日)が、7月に開催された「ニューヨーク・アジア映画祭」で上映され、主演の阿部寛さんと内田監督が来米した。阿部さんは、同映画祭がアジアで最も活躍する俳優に贈る「スクリーン・インターナショナル・スター・アジア賞」を日本人として初受賞。同作ワールドプレミア上映前に、阿部さんと内田監督にお話を伺った。 (聞き手・高橋克明)

まずは、阿部さん、「スター・アジア賞」受賞、おめでとうございます!

阿部 本当にびっくりしました。アメリカで賞をもらえるというのは初めての経験なのでうれしいです。監督には本当に感謝していますね。

そして、監督、これからいよいよワールドプレミア上映になります。今の率直なお気持ちは。

内田英治監督 そうですね。去年、撮影したんですけど、コロナ真っ最中で、映画自体どうなるか分からない緊張感漂っている中、完成して、こうやって海外で上映できる。コロナ禍以前よりもうれしいかもですね。(笑)

今作は、監督のオリジナル脚本で、その上で阿部さんをキャスティングされたということは、もう、これ以上の配役はない正解、ということですね。

監督 そうですね、何の迷いもなく撮影に入れました。

脚本を書く段階で、阿部さんをイメージされていた、と。

監督 そうですね、こういう大人の役をできる役者さんが、まず日本に少ない。それに、映画やドラマを見ていて、例えば刑事の役とか、「これ、絶対刑事っぽくねえよな」っていうことが日本の作品では多いんですよ。「これ刑事にどうしても見えない」って。その映画やドラマの中で、その職業に見えない作品が多いなと思っていて。そういう面ではやっぱり今回は不器用なまでに仕事に突き進んで、それがなくなってしまった不器用な刑事っていう部分においては、もう、もうね、阿部さん以外思いつかないですよ。

阿部さんは、今までさまざまな役を演じてこられました。今回は音楽隊のドラマーということで、見事なスティックさばきを披露されましたが、どうやって習得されたのでしょう。

阿部 撮影2カ月か3カ月前までは、全く楽器って触ったことないし、苦手意識がすごいあったんですけど、まあ、今回ね、(劇中の)主人公もそうじゃないですか。

急きょ、音楽隊に異動となった役とまんま同じですね。

阿部 だからそれが励みになったというか。練習している時も、ほんと気が遠くなりましたね。これ、ヤバイなって。いつになったらできるんだろうって。手元を吹き替えの人にやってもらう話も出てきて、もうそこに頼るしかないんだろうなと思ったんだけど、基本的なスティックの“たんたったたんたったたん…”をある程度できるようになるのに1カ月半ぐらいかかって。ただそれができるようになったら、そこからは早かったんですけどね

役柄とほぼ同じ、ですね。(笑)

阿部 重なってました(笑)、練習している時はもう本当に、本当に、(苦笑)本当に、大変でしたね。

この役を演じ切ったあと、その前と後でご自身の中に何か変化はありましたか。

阿部 撮影1カ月前くらいに、みんなで30人くらいかな、集まって、監督を中心に部活のように演奏の練習をしたんですよね。そんなの、この俳優の仕事をして、初めての経験で。いい年こいたメンバーが集まって、みんな下手なんだけど、とりあえず最後までやってみましょうって。そこで一応セッションなりできるわけですよ。それが何より面白かった。最後まで、みんながお互いにカバーし合って、それって役者の仕事に似てるなって思ったし、その高揚感みたいなものが、この映画で久しぶりに…ホント、中学高校の時以来、何か部活動のような経験ができたのは、すごく印象に残ってますね。

監督 やっぱり阿部さんがまず、ドラムを叩くっていう役を受けていただいた時点で、すごいチャレンジだと思うんですよ。最初、指導する音楽監修の方が「かなり厳しいです」と(笑)。今だから言っちゃいますけど、「プロの目から見て、阿部さんが習得するのは、ほぼ不可能です」って言われたんです(笑)。でもね、撮影に入ったら、いきなり叩けるようになってるんですよね。本番までにちゃんと仕上げてくる。不可能を可能にする。それを見て、プロの役者ってすごいんだなぁって僕は正直思いました。

鳥肌が立ちます。

監督 大変だったと思いますよ、本当に。他の仕事もやってらっしゃった中だったので。

今日のワールドプレミア、観客のニューヨーカーらには、本作を見て何を感じてもらいたいでしょうか。

阿部 昭和な男って言うのかな、日本人気質な男が、人生のステージを変えてまた新たに挑戦していく、その姿がこっちの人にどう響くのか、劇場にいて、横からでもいいから見たいなって思いますね。どんな反応か本当に見たい。この外国の地で、お客さんの反応を見られるってめったにないチャンスなので、それを受け止めたいと思います。

監督 こういうミドルエイジクライシスの映画って意外に日本よりアメリカ映画の方が多いと思うんですよ。「レスラー」とかね。中年が自分の意義を考える映画ってこの国の方が多い気がして。その国で、このアジア映画がどう受け止められるかっていうのは僕もすごい興味がありますね。今、特に価値観の変化が激しい時代になって、自身の意義を考えるミドルエイジって世界共通だと思うんです。どう受け入れられるか、とても興味があります。

それでは、ニューヨークという街の印象を聞かせていただけますか。

阿部 10年ぶりぐらいに来たんですけど、歩いている人とか、こんなにキャラ濃かったかなと(笑)。特にここ何年か日本ではみんなマスクしてる人をずっと見てきたからかもしれないけれど…。それにしてもニューヨーカー、キャラ濃いなーと。街を歩く人が、みんないきいきしてましたね。日本がマスク状態だから、こっち来て元気もらえました。改めて素晴らしい活気ある街だなと思いましたね。

監督 実は僕、90年代に「浪花」っていう日本レストランで1年くらいバイトしてたんですよ。

えーーーー!!! 10年前くらいまでありました。よく行っていました。

監督 (僕がいたのは)93年くらいでしたかね。その時は、えらい汚い街だったんですよ、ニューヨーク(笑)。それが今では、えらいきれいになったな、と。(当時とは)まるで違う街ですよね。

最後に、ニューヨークの日本人にメッセージをお願いします。

監督 やっぱりニューヨークに来ている時点で、目的意識が強いと思うんですよ。映画がやりたくて来る人も多い街ですよね。皆さんのやりたいことを、突き詰められるといいんじゃないかなと思います。

阿部 僕は暮らしたことがないので、逆にうらやましいですね。自分もニューヨークに来て、そうやって夢を追えるように、この年ですけど、まだチャンスがあったらそういうことをやってみたいなと思うので、皆さんは、今やれてるってことはすごいチャレンジだと思うし、ぜひ頑張ってほしいです。

阿部 寛(あべ・ひろし) 職業:俳優
1964年6月22日生まれ。神奈川県出身。『テルマエ・ロマエ』(2012)で第36回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞、第38回日本アカデミー賞では『ふしぎな岬の物語』(14)で優秀主演男優賞、『柘榴坂の仇討』(14)で優秀助演男優賞をダブル受賞。「結婚できない男」(06、19/CX)、「新参者」(10/TBS)、「ゴーイングマイホーム」(12/CX)、「下町ロケット」(15、18/TBS)、「ドラゴン桜」(05、21/TBS)、「DCU」(22/TBS)などのテレビドラマでも主演を務める。その他の映画出演作品は、『トリック 劇場版シリーズ』(02~14)、是枝裕和監督の『歩いても 歩いても』(08)、『海よりもまだ深く』(16)、新参者 劇場版シリーズの『麒麟の翼』(12)、『祈りの幕が下りる時』(16)、『テルマエ・ロマエⅡ』(14)、『HOKUSAI』(21)、外国映画では、チェン・カイコー監督の日中合作『空海‐KU-KAI‐ 美しき王妃の謎』、マレーシア映画でトム・リン監督の『夕霧花園』(21)など多数。『護られなかった者たちへ』(21)でも第45回日本アカデミー賞優秀助演男優賞受賞。主演最近作は『とんび』(4月8日公開)。

 

内田英治(うちだ・えいじ)監督 『ミッドナイトスワン』(20)で日本アカデミー賞最優秀作品受賞。ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。週刊プレイボーイ記者を経て1999年「教習所物語」(TBS)で脚本家デビューの後、『ガチャポン!』(2004)で映画監督デビュー。『グレイトフルデッド』(14)がゆうばり国際ファンタスティック映画祭、ブリュッセル・ファンタスティック映画祭(ベルギー)など多くの主要映画祭で評価された。その他『獣道』(17)、ネットフリックス「全裸監督」(19)では脚本・監督も手掛けた。

(2022年8月6日号掲載)

◇ ◇ ◇

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、1000人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

Share.