【独占インタビュー】矢野顕子

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BOUT. 321

シンガー・ソングライター・ピアニスト 矢野顕子に聞く

音楽が自分から“出てきてしまう”そんな人生

6月16日NYで1年ぶりのライブ

30年前、音楽制作の拠点をニューヨークに移し、日本とニューヨークを行き来きするシンガーソングライーター、ピアニストの矢野顕子さん。音楽シーンで特別な存在であり続ける矢野さんの最新作品、日本人宇宙飛行士の野口聡一さんとのコラボレーションが話題に。野口さんが2020年の国際宇宙ステーション長期滞在中に書いた歌詞に矢野さんが曲をつけ、アルバムを発表。ソロデビューから48年たった今も、新たな挑戦をし続ける。6月16日には、恒例となったニューヨークでのライブを控える。自身の活動、お気持ちを伺った。(聞き手・高橋克明)

すでに30年、ニューヨークで暮らされました。振り返っていかがですか。

矢野 人生でいちばん長い時間になりましたねぇ。故郷…とまでは言えませんけど、終の棲家(ついのすみか)になるかなっていう感じはします。

ニューヨークに来なかった人生を想像することってありますか。

矢野 想像することはあるけれど…でも、音楽はもう作ってなかったかもしれない…。音楽を作り続ける動機がなくなっていたかもとは思います。

つまりこの街で活動されてるということ自体が、音楽を継続していく理由になっている、みたいな感じでしょうか。

矢野 と思います。街が持つエネルギーってあって、緊張感とか、さまざまな国の人々の暮らしとか、そういうの、とても好きなんですね。マンハッタンという、そう広くないエリアに、本当に多種多様な人々が、みんな違う考えをもって、生きる意志をもって生きている。この状態に身を置くことは大好きですね。それに、あらゆることに対して自分に責任を持つ、っていうことが、この街では優先されるけれど、そこも好きですね。おとなしくしていれば暮らせる、という日本だと、モノを創る環境には向いてないかなぁとは思いますね。

音楽家としては重要な要素ですね。

矢野 やり続けるっていう動機をキープできる街ではあると思いますね。それはとても大事なことだと思う。

ステージ上ではどうですか。(日米)両国でコンサートをされる矢野さんは感じるところがあるのかと思います。

矢野 去年、コロナ禍が明けて以降初めてニューヨークで4年ぶりにコンサートをやったんです。本当に驚いたのは(会場が)以前と全く雰囲気が変わってたんですね。アメリカ人の若い世代のお客さんがいっぱい来てくれたんですね。

昔のアナログレコードを再販されたから!

矢野 そうなんです! それが今、ヨーロッパやアメリカの若い人たちにすごくウケていて、彼らがライブ会場まで足を運んでくれるようになったんですよ。すごく励まされた気がして、また新たに頑張ろうって気持ちになれました。

彼らには斬新な“新曲”だったんでしょうね。

矢野 うん、すごくうれしいです。もちろん昔からずっと聞き続けてくださっている方がいるということは、もう「宝物」のようなものですけど、新たに私を発見してくださる方がいて、面白いって反応してくれたっていうのは、作り手としてはこれ以上ないほど、うれしいんですね。

そして、このたび、宇宙飛行士の野口聡一さんとのコラボも実現しました。野口さんが実際に宇宙で書いた歌詞を作曲、弾き語りをされたわけですが。

矢野 そう! これは本っ当〜に私がやりたかったこと、表現したかったことだったので、スタッフさんたちが実現まで持っていってくれました。野口さんの貴重な体験をシェアしてもらえて、「宇宙って、面白いよ」ってことだけではなく、その「宇宙に実際に出かけているのは人間なんだ」っていうことを表現したかった。(今回のプロジェクト自体)少なくとも音楽においては今までになかった試みだったと思うんですね。これからのライフワークにしたいなと思ってるくらいです。

矢野さんのキャリアを持ってしても、まだやりたいこと!は残されているわけですね。

矢野 やりたいことはドンドン変わっていくから。その時、自分が思っていること、感じていることで、やりたい対象は変わっていきます。ただ、変わらないものは最良のモノを作ろうって気持ちですかね。

時代を超えて若い世代に受け入れられているのは、矢野さんご自身が、ずっとアップデートされているからでしょうね。

矢野 それはあると思います。そうだといいなと思います。40年間以上音楽を作り続けて、いまだにやれていることは、誰もができることではないので、それにはやはり作り手もちゃんとしてなくちゃいけないし、聞いてくださる人々がいなければ成立しないし、それをサポートしてくれるスタッフも必要になってくるわけですから。しかも、日本に住んでいるわけではないので、それにもかかわらず、ちゃんとこうやってできてるっていうことはやっぱりすごいですよね。

日本のアーティストが一世一代の勝負として挑戦する、このニューヨークの街で、矢野さんは日常的にコンサートをされているわけですから。

矢野 そうかもしれません。日本以外の国でも、コンサート演奏で、自分の生の声を聴いていただきたいなっていう気持ちもすごくあります。

矢野さんのコンサートはお客さんも、そして矢野さん自身も楽しそうなのが印象的です。音楽をやめたいって思ったことは、ないですか。

矢野 一度もないです。(笑)

10年前のインタビューでも、同じ即答でした。(笑)

矢野 だってないもの。(笑)

矢野さんにとっては生きること、とイコールなんですね。

矢野 そうですね、音楽以外のことって本当にできないですし、なんだろう…自分の好きなこと、得意なことがそのまんま、皆さんに喜んでもらえて、しかもお金までいただけるなんて、本当に幸せなことだと思います。

この先のゴール…をお聞きしようと思ったのですが、ずっと音楽やり続けていく、というのが答え、なんですね。

矢野 うん、そうね。物理的に、声が出なくなるとか、指が動かなくなるとか、そういうふうになったとしても、何らかの形でやってるんじゃないですかね。自分の中から出てくるものが“音楽”なので、文筆業の人が生きることと書くことがそのまま当たり前みたいなのと同じように音楽が“出てきてしまう”ので、こういう人生なんじゃないですかね。(にっこり)

はい。

矢野 だから、誰も聞いてなくても、私は音楽をやってるんですよ、絶対。ただ、21世紀の世の中で生きていく上で、音楽が仕事になっているっていう幸せな状況であるっていうことですね。そのために全く努力してこなかったかっていうとそうでもない。それはそれで自分が心地よく音楽ができるためのことはやってきたと思うし、なによりスタッフがいつもサポートしてくれたってことですね。

そして、その舞台は大好きなニューヨークで、と。

矢野 好きだね〜(笑)。冬は、キューって寒くて、夏はもうベタベタに暑くても、でもやっぱりここがいいね。ほら、年をとってくるとやっぱり生まれ故郷が好きになるって聞くじゃない。育った青森に対しての思いを馳せるのと似てる。青森リンゴとニューヨークのアップルだったら絶対、青森リンゴを買うけれど(笑)。でも、この街で一生懸命音楽を作ってた自分っていうのはいつまでたっても大好きですね。

いちばん好きなスポットはどこですか。

矢野 どこも好きですけど、ビルとビルの合間からエンパイア・ステート・ビルディングが見える瞬間、キュンとしますね。そういうとこ、ちょっとみんなに発見してほしいなって思う(笑)、それから私はハドソンリバーに近いところに住んでるので、やっぱり川風に当たってほしいって思う。あとはマンハッタンから離れた郊外も好き。ウエストチェスターでもロングアイランドでも、やっぱり田舎はいいですね。

最後に、これからニューヨークで挑戦したい、という人にアドバイスをするとしたら、何を伝えますか。

矢野 そうね、ニューヨークは実際に来て、空気を吸って、初めて分かる街だと思うので、それを味わってもらいたいですね。今は円安であり、インフレであり、超えなくちゃいけないハードルも高いけれど、超えるだけの魅力がこの街にはあるので、ぜひ、この街の力を体感しに来てください!

矢野顕子(やの・あきこ) シンガー・ソングライター・ピアニスト
1976年ソロデビュ−。90年渡米後NY在住。LAでリトル・フィートとレコーディングしたデビュー・アルバム『ジャパニーズ・ガール』(76年)以来、イエロー・マジック・オーケストラ(別名YMO)、パット・メセニー、トーマス・ドルビー、ザ・チーフタンズ、トニーニョ・オルタ、マーク・リーヴォー、石川さゆり、上原ひろみ、YUKI等数多くの著名なミュージシャンと共演してきている。同時に、レイ・ハラカミとの「yanogami」、森山良子との「yamori」、津軽三味線の名手・上妻宏光との「yano et agatsuma」などの音楽ユニットでの活動も活発。宮崎駿監督のスタジオジブリの数多くの映画に作曲し、声優としても貢献している。NYを拠点とするレコードレーベルNonesuch Recordsより3枚のアルバム『AKIKO YANO』、『LOVE LIFE』、『PIANO NIGHTLY』をリリース。27枚目のオリジナルアルバム『akiko』(2008年)はグラミー賞受賞プロデューサーT・ボーン・バーネットによるプロデュース作品。最近では、フランスのレコードレーベル Wewantsoundsが、ファーストアルバム『JAPANESE GIRL』および他の初期のアルバムをアナログ盤として再発し、注目を集めている。最新作品は、6人目の日本人宇宙飛行士である野口聡一とのコラボレーションアルバム『I Want to See You So Badly(23)』を発表。
【ウェブ】www.akikoyano.com

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【6月16日】矢野顕子トリオNYライブ
1年ぶりとなるニューヨーク、老舗クラブ「Joe’s Pub」での公演(6月16日)、ファーストセット(午後6時)に加え、同日午後8時半からの追加公演も決定。チケットが発売中(https://shorturl.at/bgmyJ)。セカンドセットもファーストセット同様、毎夏、日本ツアーを行うウィル・リー(ベース&ヴォーカル)、クリス・パーカー(ドラムス)とのトリオでの出演となる。
■概要
・会場:Joe’s Pub at Public Theater(Joespub.com 212-967-7555)
・チケット:40ドル
※10月にサンフランシスコ(10日)とロサンゼルス(12日)でのソロコンサートも決定した。詳細はwww.akikoyano.com参照。

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「ニューヨーク Biz!」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、1000人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

(2024年5月11日号掲載)

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