〈コラム〉孤独・孤立感からの脱却

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倫理研究所理事​長・丸山敏秋「風のゆくえ」 第158回

東日本大震災が発生する前の日本は「無縁社会」と呼ばれていた。ところが未曾有の大災害により日本人の連帯感は一気に高まり、「無縁社会」など吹き飛ばしてしまった。そうした現象は「災害ユートピア」と呼ばれる。しかしいつしか熱は冷め、孤独に悩む人たちが増えていく。

先行き不透明で渾沌とした社会では、孤独・孤立感を抱く人が増大する。生きる気力は失せ、健康面にも悪影響が及ぶ。孤独を強く感じるほど、冠動脈疾患や脳卒中の発症が増えるという研究もある。

ならば、もっと積極的に人と交流したらいいと思うのだが、そう簡単に事は運ばない。最新の研究では、孤独感が強い人ほど他者との交流が逆効果になるというのだから厄介だ。

大きく2つの理由がある。第1に、孤独・孤立感を抱いている人にとって、他者との交流が「怖いもの」になっている可能性がある。第2に、孤独・孤立感の強い人ほど、他者と上手にコミュニケーションできず、交流を苦痛に感じてしまう。結局、1人のほうが楽なのだ。その根底には「人間不信」がある。

だから孤独・孤立感の解消は、一筋縄ではいかない。人間不信のさらに奥底には、幼児期に親や養育者との間で「基本的信頼感」が育たなかった事実があるだろう。とくに母親との関わりで、「自分はこの世に生まれてきてよかったんだ」という安心感が得られないと、生きることへの不安を抱えたまま、他者を信じられなくなりやすい。

孤独・孤立感からの脱却にも有効な1つの方法を紹介しよう。それは、筆者の所属する社会教育団体で長く実施してきた「恩の遡源」という修養技法である。やり方はシンプルだ。静かな場所で瞑目し、幼少期からの人生を振り返りながら、わが生命の本源である両親に対して「ありがたい」という感恩感謝の念を深めるのである。一種の「内観法」とも言えるそれを、セミナーなどで集団実習として行うと相乗効果が高まるが、もちろん1人でもできる。

親に対して不満やこだわりを捨てきれずにいる人は意外なほど多い。自覚は乏しくても、怒りや憎しみを抱いている人もいる。そうしたマイナス感情を解消しておかないと、いつまでもしこりが残って、精神の安定やバランスを欠いてしまう。

…最も大切な我が命の根元は、両親である。この事に思い至れば、親を尊敬し、大切にし、日夜孝養をつくすのは、親がえらいからではない、強いからではない。世の中にただ一人の私の親であるからである。私の命の根元であり、むしろ私自身の命である親だからである。(中略)ほんとうに、父を敬し、母を愛する、純情の子でなければ、世に残るような大業をなし遂げる事は出来ない。いや世の常のことでも、親を大切にせぬような子は、何一つ満足には出来ない。

私どもの学びの基本テキスト『万人幸福の栞』(丸山敏雄著)にそうある。厳しい言葉だが、その深意をくみ取り、両親への感謝の念を日々の活力に転化できたら、人間として大きな成長を遂げたことになる。

(次回は6月第2週号掲載)

〈プロフィル〉 丸山敏秋(まるやま・としあき) 1953年、東京都に生まれる。筑波大学大学院哲学思想研究科修了(文学博士)。一般社団法人倫理研究所理事長。著書に『「いのち」とつながる喜び』(講談社)『至心に生きる 丸山敏雄をめぐる人たち』(倫理研究所刊)ほか多数。最新刊『朗らかに生きる』(倫理研究所刊)。

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