BOUT. 303
芸人、絵本作家 西野亮廣に聞く
映画「えんとつ町のプペル」NY市内と全米で上映
お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣さんが手掛けた絵本「えんとつ町のプペル(POUPELLE OF CHIMNEY TOWN)」を原作にした同名劇場版アニメーションが2021年12月31日(金)から、ニューヨーク市内AMC Empire 25 シアターで上映される。22年1月7日の全米拡大公開に向け、ニューヨークを訪れた西野さんにお話を聞いた。(聞き手・高橋克明)
プライベートで、8回ほど来られたということですが、西野さんにとって、もうニューヨークは、第2の故郷、くらい特別な思いのある街ではないでしょうか。
西野 いやいやいや(笑)。でも、確かに思い入れはありますね。最初にチャレンジした街がニューヨークだったので…。もう10年ぐらい前ですけど、しかも。むっちゃいい思い出なんですよ、全部。(8年前)個展やった時も、ニューヨークの方にむっちゃ応援していただいて。
はい。
西野 それで、大好きになっちゃったんですねー。
その時、インタビューで西野さんが、自分の作品が日本人だけに届かせるのがもったいない、とおっしゃっていました。これからは、世界も意識したい、と。当然、今回の映画も、最初から世界を意識されていたと思います。去年の日本公開から、ちょうど1年。今回の北米公開は、長かったですか。短かったですか。
西野 いや、(日本)公開してからニューヨークは1年後になったんですけれど、その間にいろんな国の映画祭や上映会をいろいろやっていただいたので、そういった意味では、1年間はあっという間でした。うん…本当にあっと言う間でしたね…。
正式に、北米の配給が決定した時のお気持ちはいかがでしたか。
西野 いよいよ始まったなっていうのと、ずいぶん時間かかっちゃったなっていう感じですね。(日本公開からの1年はあっという間でも、構想から)ちゃんと世界戦がスタートするまで、ずいぶん時間がかかったなっていう感じですね。
イングリッシュ版での声優のキャスティングにも関わってらっしゃたんですか。
西野 いえ、イングリッシュ版は、ジェフっていう男がいるんですけど、彼がもう「このキャストが絶対いいから」みたいにゴリ押ししてきて(笑)それで決まりました。
実際に観て、いかがでしたか。
西野 最高でした、最高でした。もう、声ぴったりで、それは僕だけじゃなくて、廣田(裕介)監督も、もうグッと来てましたね。声がぴったりすぎるって。
イングリッシュ版と日本版、受ける印象に違いはありましたか。
西野 なんかね、これも廣田監督と同じ意見なんですけど、自分たちが、お客さんみたいになっちゃうんですよ。イングリッシュ版になった瞬間に、一旦、誰かの手に渡ったんだなって。そんな感じですね。そういった意味では、イチお客さんとして、映画「えんとつ町のプペル」を見ることができたので、すごいいい経験でしたね。
昨年の日本公開時に観た時に、まずは圧倒的な映像美に驚かされました。当初、西野さんの頭で描いたものに限りなく近づけられたのでは、と思ったのですが。
西野 なんかね、これも廣田監督と同じ意見なんですけど、自分たちが、お客さんみたい。そうですね。それは(制作の)STUDIO4℃さんや、廣田監督と組めて、本当良かったなと思いますね。ちゃんと思い描いたやつができたと思います。
絵本が原作の映画は当然、ストーリー上も膨らませるわけですが、次から次へと楽しませてくれる、まさにジェットコースタームービーになっていました。脚本の段階でこだわったことはありますか。
西野 結局、自分の話なんですね。自分が、日本で芸人としてスタートして、絵本作家やって、映画作って、ミュージカル作って、歌舞伎作って、あらゆる挑戦をしていく旅…ですよね。やっぱり、日本はとにかく村社会ですから、挑戦をあまり歓迎しないっていう…。声を上げれば、笑われて、行動すれば、叩かれる、あるいは邪魔をされる。そういう目に自分自身がたくさんあってきて。多分、日本でトップクラスぐらい叩かれたと思うんすけど(笑)。それをちゃんと反映させようっていうのをすごく意識しました。それは叩く側の正義もちゃんと書こうと思って。
なるほど。
西野 なぜ人は他人の夢を応援できないんだろうっていうのを、そこもちゃんと描こうと思って、そこはすごく向き合いましたね。
実際見てる側も、映画のストーリーと西野さんご自身のストーリーが重なっていて、だからこその上映会でのスタンディングオベーションだったと思います。舞台挨拶での、「夢に挑戦する人間を笑う時代を終わらせに来ました」というセリフにシビれました。
西野 やっぱり自分と同じように挑戦して、叩かれる人を、僕、挑戦者の痛みはやっぱりよくわかっているつもりなので。自分と同じように挑戦して、叩かれる人を応援したいなって…。頑張れっていうのと、まだもうちょっと踏ん張ろうよって、思っていて。なにか、その自分ならではの、膿のようなものが、(作品に)出た感じはしますね。
数年前に西野さんが「ディズニーを倒す」とおっしゃった時、それを笑った人もいたと思います。今回、実際にご自身の作品が、全米で正式に配給され、英語字幕と吹替えで世界中の人々に観られることになりました。ここまでたどり着いた道を振り返っていかがですか。
西野 やっぱり一番笑われたとか、叩かれた時に、何が一番悔しかったんだろうなって考えたんですけど、当然、自分が悪く言われるとか批判されるのもあまり気持ちのいいものではない、それはもう間違いないんですけど、そんなことよりも自分と仕事してる人も一緒に叩かれるんすよ。自分のファンの人も「西野応援してやがるぜあいつら」みたいな感じで、仕事のパートナーや、ファンの人が叩かれて肩身の狭い思いをしていたので、そこに対して、よかったなっていうのはあります。その人たちに、ちょっとだけ恩返しできたかなって。もうそんなに肩身狭い思いしなくて大丈夫ですよっていうのは、今なら、ちょっと言えるかなって感じですね。そこを守れるようになるのが一番いいですね。
今回アメリカで世界の人に見てもらうことになります。作品を通じて伝えたいこととは何でしょう。
西野 極めて個人的なストーリーを書いたつもりだったんですけれども、公開のタイミングとCOVID-19が重なってしまって、本当に世界中が黒い煙で覆われて、働きたくても働けないとか、挑戦することすらできないっていう世界になったじゃないですか。本当に、今、みんな煙突街みたいなところに住むようになってしまった。それって、むっちゃくちゃ大変だし、初めて経験してるし、右も左もわからないし、この乗り越え方わからないんだけれど、ひとつ確かなことは「星を見続けないと、見ることができない」っていうことですね。それは、間違いないことなので。今、まさに大変な思いをされてる方に、そのメッセージが届くといいなと思います。
西野さんの次の目標は何でしょう。
西野 ニューヨークのことで言うとブロードウェイですね、ロングランを狙いたいです。めちゃくちゃ高いハードルなのは、わかっているんですけど、そんなこと言い出したら、すべてのチャレンジがそうなので。まだ日本人で、ロングランをやってる人がいないっていうなら、ちゃんと真正面から挑んでみたいですね。
8年前だったら「そんな夢みたいなこと」っていう人がいたとしても、今の西野さんだったら本当にやっちゃうんだろうなって思います。
西野 頑張ります。僕、結構しつこいんで(笑)。やるって決めたら結構しぶといんで、頑張ります。っていうか、もう既に進めてますから。うちのスタッフも、ミュージカルのスタッフも、今、みんなこっち来てますしね。
次から次へとエンターテインメントに対して、命を削って挑戦していく。その原動力を言葉にすると何でしょう。
西野 多分、シンプルに、まだ知らない景色を見たいっていう、ことなんじゃないかなと思いますね。ミュージカルをやったらどうなるんだろうとか、歌舞伎を作るってどんな世界なんだろうとか、作り手として歌舞伎と付き合った時に何が見えるんだろうっていうのは、むちゃくちゃ興味があるので。知らないものを見たいっていう欲はなくならないと思います。守りに入ってしまうと、すでに知ってるものだけだらけになっちゃって、それって、やっぱり、退屈ですよね。だから貯金とかせず、全部、私財投げうって、次のエンタメに全投資でいくっていう、それだけですね。
最後に。ニューヨークという街の印象を聞かせてください。
西野 僕は非常に好きですね。まず挑戦者に対しては基本的にウェルカムであるということ、でも、ちゃんと競争もあるので、中途半端なことをしたら、すぐいなくなるっていう。フェアでいいなと思いますね。ちゃんと迎え入れて、ちゃんと戦って、ちゃんと勝たないと残れないっていう、すごくフェアな街だなって思います。
もうひとつだけ。ファンにメッセージをお願いします。
西野 みんな、結構、折り合いつけてる感じがするんです。日本人がエンタメで世界とるなんて、多分みんな思ってないっていうか、それは、ディズニーとか、ハリウッドとかの仕事でしょぐらいの感覚で、折り合いつけてると思うんすけど…そんなことは、ないので、もう、ちょっとだけ待ってくださいって感じです。がんばりますっていう感じです。
製作総指揮・原作・脚本:西野亮廣
1980年生まれ。芸人・絵本作家。1999年に梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」を結成。お笑い芸人としての活動のほか、絵本作家として「チックタック~約束の時計台~」「ほんやのポンチョ」「オルゴールワールド」「Zip&Candyジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス」「Dr.インクの星空キネマ」を発表するほか、「魔法のコンパス 道なき道の歩き方」「革命のファンファーレ」「新世界」などビジネス書も多数手がけ、幅広く活躍。国内最大の会員数を誇るオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」(https://salon.jp/nishino)のオーナーなど、多彩な顔を持つ。
●作品紹介
「Poupelle Of Chimney Town(映画「えんとつ町のプペル」)」
全米公開:2022年1月7日(金)
2021年12月30日(木)から1週間、ニューヨーク市内AMCシアターで上映される。全米公開は2022年1月7日から。
黒い煙に覆われた煙突だらけの「えんとつ町」。ハロウィーンの夜に、えんとつ掃除人の少年とゴミから誕生したゴミ人間プペルが出会ったことから、2人に奇跡が起きていく。
・脚本・製作総指揮・西野亮廣
・監督・廣田裕介
・吹き替え:英語版
・上映時間:100分
(2022年1月1日号掲載)
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西野亮廣(1)やりたいこと我慢してまで融合したいとは思えないんです (2013年4月6日号掲載)
西野亮廣(2) NYでの個展が作家活動の風通しを良くしてくれた (2018年5月26日号掲載)
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〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、1000人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。