西野亮廣(1)

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やりたいこと我慢してまで融合したいとは思えないんです

「ガチ!」BOUT.142

 

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お笑いコンビ「キングコング」のツッコミとして広く知られる西野亮廣さん。絵本作家としての顔も持ち、ことし2月、ニューヨークで絵本原画展を開催。140点の原画と共にニューヨークデビューを果たした。現地出版社や映画関係者からもオファーを受け、大きく進展した今回の個展。以前から海外進出を目標に制作活動を進めていたという西野さんにお話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

NYの絵本原画展が好評

ニューヨークでの個展を実現されて今のお気持ちはいかがですか。

西野 僕なんかがねぇ…(笑)。何個か段階、飛ばしちゃってますよね。でも、それくらいのことしないと、みんなドキドキしなくなっちゃってるじゃないですか。大体、芸人はこんな球投げてくるなっていうことはもう(世間には)見切られているし。だとすると「いきなりもうニューヨークでやっちゃう?」みたいな。(笑)

海外進出はご自身の希望だったんですね。

西野 日本で原画展やると、ふらっと外国の方が来て「え、これどんな話なの?」ってよく聞かれるんですよ。でも、これがねぇ、伝えられない(笑)。それがもう悔しくて、悔しくて…。その時に思ったんです。そもそもなんで僕は物語を作る時に日本人限定にしちゃったんだろうって。これは良くないぞって。なので3作目からは英訳を付けてるんです。せっかくおなか痛めて産んだ子供のようなモンですから、やっぱりいろんな人に届けたいなって思ったんですよ。日本にちょっと限定するのは嫌だなって。

そこから実際にこちらで個展を開くまでが早かったですね。

西野 まず海外に行くにはどうしたらいいんかなーって思って。エージェントさんに動いてもらったとしても、何年もかかっちゃうから、待ってられへんわって。自分が実際行って「はいっ。これ描きましたっ」って言った方が、伝わるスピードが早い。作品だけに走らせるんじゃなくて、もう自分も動いちゃおうと思ったんですよ。

実際に来られたニューヨークはいかがですか。

西野 大好きです! こういうパワーあふれる場所。いい街だと思います。やっぱりこの街が持っているエネルギーはすごいですよね。スピードが早いです。ここ(ギャラリー)のオーナーさんもそうでしたけど「いい!」ってなったら、話は早いですよね。いろんなもん(段階)飛ばして急にばっと持ち上げてくださったり。いわゆる(売買する)個展じゃないから、こんなことしたってギャラリーはもうけがないわけですよ。でもここのオーナーさんは「いいから、うちでやって」って。2分くらいで決まっちゃいました。真逆もあるんですけどね(笑)。駄目だったら「はい、もう帰ってください」ですけど。

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実現までされる行動力がスゴイですね。

西野 大変なんですけどね、これはもう…。それなりの苦労は結構あるんですけど、でもやんないと(みんなを)ドキドキさせられない。あいつ次こんなことしやがった、次はこんなことしやがったって、ドキドキさせられないですよね。

世間を?

西野 はい! あと、自分を応援してくださってる方とかを。常にヒヤヒヤさせたいんですよ。危なっかしい感じっていうのかな。それだけはいくつになっても、消したくないなと。「大丈夫かあいつ!?」みたいな。(笑)

西野さんの活動は(ご自身の)ブログを炎上させたり(笑)アートの世界に足を踏み入れたり、いつも戦っているイメージがありました。あくまでテレビのこっち側の素人の持つ印象なんですが。

西野 どこかに迎合したり、協調性があるっていうのは、素晴らしいことだと思うんですよ。ただ…なんて言うのかな。それだけじゃなくて、やりたいことやんないとって思うんです。ドキドキさせたいって気持ちの方が強いんだと思います。やりたいこと我慢してまで融合したいとは思えないんですね。

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そこまでの気持ちで作った作品はことのほか思い入れが強くなりますね。

西野 子供みたいなモンです、ハイ。僕は独身なのでこれしかいないんですよ、子供といえるものは。

漫才のネタができ上がった時ともまた違う感覚ですか。

西野 漫才は1回(披露)しちゃうとネタバレするので、(2回目以降は)ちょっとやりにくくなるんですけど、こっちは1回、世に出せば、何回でも読み継がれていくし、息は長いですよね。漫才はネタ自体より技術を上げていく競技だと思うんです。作品性はこっちの方が要求されますね。

作品の1枚当たりのかける日数は平均どれくらいでしょうか。

西野 この絵だったら1カ月くらいかかって。それで1冊の絵本にやっぱ3年くらいかかっちゃいますね。1冊目の絵本はページ数が多かったんで、あれは5年くらい。めちゃくちゃかかるんですよ。

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コストパフォーマンスだけ考えたら、決して良くないですよね。

西野 最悪だと思います。(笑)

(笑)。それでも続けられる理由はやはり…。

西野 そう!(みんなを)ドキドキさせたいってだけなんです。(笑)

なるほど。今後、アーティストとしても、今回のニューヨーク個展は大きな進展になりますね。

西野 だと思います、はい。アーティストとしてっていうよりは、(プロモーション)活動の仕方が今後、変わってくるかなと思いますね。なんていうんですかね…日本人って、やっぱ2、3歩引くことが美徳として感じられるやないですか。でも、こんだけいろんな国の人が集まってる街って、それだと生き残られへんなって。「オレはこうですよ、こうでもありますよ」って自分っていうパンチを出していかないと伝わらないですよね。

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作品だけでなく、自分も主張していく、と。

西野 日本って「空気を読む」って言葉があるんですけど、でもそれってやっぱ日本人のルールでってことですよね。でもよくよく考えたらこっち日本人あんまりいないし(笑)。「空気を読む」っていっても、こっちはアフリカから来ている方もいらっしゃるし、ヨーロッパから来ている人もいるから、そんなこと言ってられへんな、と。

まず、「空気を読む」って英語がないですね(笑)。アメリカ国民全員“総KY”だと思います。

西野 アハハ! そうなりますよね(笑)。いいと思います! それがこの国の持っているパワーやと思うんですよ。日本に帰ったら、もちろん日本のやり方ってあると思うんですけど、こっち来たらやっぱ引いてたらアカンなと思いますね。ちょっと価値観変わりましたね。やっぱ見習わないとなぁって思わされました。日本も頑張らな、せっまいコミュニティーでチマチマ、ネチネチやってる場合ちゃうな、と。

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今回は3作目ということですが、作品としてのクオリティーはご自身の中では満足されていますか。

西野 まぁ、やっぱり、最新作が一番好きですね。多分、次できたら4冊目が一番好きになると思います。話自体は2冊目がすごく単純で好きなんですよ。ただ、今回の3冊目は…すごく時間かかりましたね〜。世界の平和と本気で向き合うみたいな内容なんでね。その答えを出すのにすごく時間かかりました。もちろん、僕なりの答えなんですけど。だからこそ、ようやく生まれてきてくれてので、特別、大事ですねー。

原案はタモリさんから聞いた話だとか。

西野 タモリさんが入り口の設定を作られて。それを聞いたのが、もう今から6年くらい前なんで、実は1作目を作っている途中だったんですよ。その時すごいことをおっしゃったんですね。「西野、おまえなんで戦争なんかが起こるか考えたことあるか?」って。「それは好きっていう感情が人間にあるからなんだよ」って。好きって感情さえなければ、親を殺されても殺した相手にやり返そうとは思わない。非常に動物に近い感じの平和は訪れるだろうって。でも、人間には好きって感情があるから、やられたらやり返そうと思うし、自分の守りたいもののために攻撃しようとする。好きって気持ちさえなければ、われわれは人を殺すことは絶対ない。でも、好きって感情はもう遺伝子レベルで組み込まれちゃってるから、捨てることはできない。それを受け止めた上で、われわれが戦争をしないためには…どういう答えをおまえは出す? って。

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すごい話ですね。

西野 僕は完全に無宗教なんですけど、ここにはちゃんと目を向けようって。そんなやっかいな感情を持っちゃってる生き物がどうすりゃ世界平和を実現させられるんだろう。今回の本で僕なりの一つの答えが出せれたらいいなってとこから始まりました。

アーティストとしての今後の目標を教えてください。

西野 実は…僕、ディズニーで仕事したいなって思ってます。それね、そこそこ本気で狙ってるんです。ディズニー、大ファンなんですよ。芸人がニューヨークで個展やって、次にあのディズニーまでやっちゃったら、「あいつはもう、オモロイ!」ってなるなって思って(笑)。「もう、あいつはいい! 芸人のクセにへんなとこまでいっちゃった!」って世間も言ってくれるだろうなと思ってまして。(笑)

(笑)。西野さんの描いた原画がディズニーによって動き出すとか。

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西野 はいはい、そういうのいいですね。何でも、何かしら絡みたいです。

そこまでいった時に、相方の梶原さんの立場が…。(笑)

西野 えー、むっちゃさげすんで見ます(笑)。こんなにっていうくらいさげすんで。(笑)

梶原さんに対する愛情が伝わってきます(笑)。最後に読者にメッセージをいただけますか。

西野 僕みたいな若輩者が言うのはほんとおこがましいんですけど。努力は必ず報われるみたいなこと言うじゃないですか。でも、努力したけど、報われへんときってあると思うんですよ。むっちゃ努力したけど、アカンかったっていうことだって絶対あると思う。でも、成功してる人は絶対、努力してるんですよね。つまり最低条件だと思うんです。成功するための出場切符みたいなもんだと思うんです。なので僕もしますので、皆さんも努力してくださいっていうことですね。締めの言葉が努力とか言っちゃってますけど(笑)。でも、最近、ホント、それしかないと思うんです。

 

西野亮廣(にしの・あきひろ) 職業:お笑い芸人、絵本作家
1980年7月3日兵庫県生まれ。99年梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」結成。「NHK上方漫才コンテスト」で最優秀賞など受賞多数。現在、「キングコングのあるコトないコト」「いつも! ガリゲル」などのレギュラー番組で活躍する一方、漫才ライブ「KING KONG LIVE」やソロトークライブ「西野亮廣独演会」などの活動も。演劇やショートムービーの脚本・演出、クレイアニメの制作も。絵本画家・作家としても活躍中。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2013年4月6日号掲載)

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