でんでん

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悲喜こもごも。これからも喜劇でも悲劇でもなんでもやりたいね

「ガチ!」BOUT. 243

 

でんでん

 

インディーズ映画界の底辺に生きる下衆な人々の葛藤や映画愛を描いた映画「下衆の愛」(監督・内田英治)で、“裸と動物”にこだわる団塊世代のプロデューサー役を演じた、俳優でんでんさん。今や映画、テレビ、舞台には欠かせない名脇役は、今夏、ニューヨークで行われた映画祭「第10回JAPAN CUTS !~ジャパン・カッツ!」に参加するため、来米した。今後の展望、初めて訪れるニューヨークの印象など、話を伺った。
(聞き手・高橋克明)

出演作「下衆の愛」、NYの映画祭で上映

 

でんでんさんは昨夜こちらに到着されたばかりだとか。

でんでん そう! …今、ちょうど時差ぼけのピークです、はい。(笑)

スミマセン(笑)。このタイミングで。

でんでん いえいえ、初めてのニューヨークなんで浮かれちゃって。もー午前中も歩き回って勝手に疲れちゃって、この取材を完全にね。(笑)

忘れられて。(笑)

でんでん 思い出して、なんてこったい! って。

忘れてらしたことをそんなハッキリとおっしゃらないでください(笑)。まず監督にお聞きしたいのは、いよいよ今夜、北米初上映ですが、今のお気持ちは。

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内田英治監督

内田英治監督 単純にすごくうれしいですね。今回こちら(ジャパン・ソサエティー)に呼んでいただくのは2回目なんですが、ニューヨークなんてなかなか来る機会がないので。

ただ、作品自体が「映画業界の底辺のインディーズ」を描いているので、華々しいマンハッタンの会場で上映することに、ヘンな違和感を感じたりはされませんか。

監督 いやいや、日本政府からの援助を一切受けていなくて、こんな立派に活動されていらっしゃるのって、ある意味「インディーズ」じゃないですか。(笑)

なるほど!(笑)

監督 存在自体が。なので、こういうところで上映してもらえるのは、ある意味うれしいですね。

でんでんさんにお聞きします。最初にオファーが来て、脚本を読んだ時の感想はいかがでしたか。

でんでん 監督とご一緒するのは、「下衆の愛」で2作目なので、すでに現場の雰囲気を分かってるし、まぁ、今回もまたハードな現場にはなるだろうなとは思ったけれど。(笑)

監督 (笑)

でんでん でも、監督の色合いっていうのかな「家族ごっこ」で鍛えられましたからね。なので、ある意味、撮影を楽しみにしてましたね。また過酷なんだろうな、と(笑)。監督の作品っていうのはね、現場ではよく分からないんだけど、仕上がりを見たらね、意外といい作品。(笑)

はい。

でんでん に、なる……ことも…たまにはある。(笑)

(笑)

でんでん うそ。多々ある。(笑)

監督 たまにあります。(笑)

作品的には、日本以上に海外にウケる印象を持ちました。

監督 前に撮った「グレイトフルデッド」という作品が、海外でも結構上映してもらったんですね。日本ではパッとしなかったんですよ。で、よし、日本人に見てもらえる映画を作ろう!と思って今回の作品を撮ったんですけれど…。

むしろ今回の方が海外で好評価を得た。

監督 びっくりです。なぜなんでしょう(笑)。分かんないんだけれど。外国の(記者の)人にも「シリーズ化」した方がいいよ、って言われたり。日本の自主映画業界っていうすごくドメスティックな話なのに、どういうところが(海外の人が)面白がるのが、逆に聞きたいくらい。(笑)

ドメスティックな内容だからこそ、評価されたのかもしれないですね。

監督 僕は、下北(沢)界隈でしか受け入れられない…そういうつもりで撮ったんですけど…なので撮影場所もあえて下北なんです。そういった意味ではうれしい誤算ですね。

でんでん (急に)下北っていうと、僕は最初にサラリーマンとして、働いた所が下北沢だったんですよ。

あ。そうなんですね。(笑)

監督 あ。そうなんですか。初めて知った。(笑)

でんでん うん。何かね、作品自体は、人間の嫌なところとか、それこそ下衆なところとか、恥ずかしい部分をさらけ出してるところが面白いのかなと。そういったところを海外の人も喜んでくれたんじゃないかなって思います。

なるほど。

でんでん (他人のを)見る分には楽しいんじゃないですかね。自分のは嫌だけど(笑)。「オレにもああいうところあるなぁ…」って、こっそり思いながら。みんなが持ってるところを見せてくれるから、楽しいのかな……。だからって、実際、僕がああいう人間に思われたら恥ずかしいんだけどね。(笑)

逆に、日本のイメージが損なわれたり、マイナスに見られたりする危険があるという心配はありませんでしたか。

監督 最初は僕もそれ、ちょっと心配してたんですけれど、ヨーロッパもそうでしたけど、(記者会見で)もっとキツい質問されるのかなぁとか思ってたら、案外なくて。コメディーとして受け入れてくれたんだと思うんですね。外国の方って(上映中に)すっごく笑ってくれるんですよ。娯楽として、ちゃんと見てくれたんだなって思います。むしろ…「日本人、可愛いじゃん!」みたいな。(笑)

なるほど。それでは、今日は北米初上映になりますが、ニューヨーカーの観客にはどこを見てもらいたいですか。

監督 いまだに日本映画って、何かあるとすぐ、「ゲイシャ」「フジヤマ」もしくは「クロサワ」みたいな(笑)。そういうイメージが強いと思うんですけど、もっと普通のライトなコメディーとして見てもらいたいなって思います。イタリアとか、ヨーロッパの方では、結構、みんな普通のコメディー映画として、普通に笑ってくれるんですよ。

サブカルチャー映画ではなく。

監督 そう。カルチャー映画はもういいだろう…って思うんですけど(笑)。いまだに(世界で)紹介される(日本映画な)のはそういうのがほとんどなんで。あとはブルックリンのヒップスターの人たちに見てもらいたいですね。僕は下北は日本のブルックリンだと思ってるので。

でんでんさんは35年のキャリアですが、今後…。

でんでん (さえぎって)長いっすね!(驚)

今、日本映画の悪役の第一人者というくらいのポジションに…。

でんでん (さえぎって)僕ですか?

はい。(笑)

でんでん いやあ、まだまだ。できれば主役で1本やりたいくらいですよ。

すでにされてらっしゃいます。(笑)

でんでん あ、そう? いや、あのねー、ほんとにね、僕は、田舎の刑事みたいなのをやりたいね。うん、善良な、人間を。

…善良な。

でんでん そう! …何を言ってるの、オレ?…てかイキナリの質問でびっくりしちゃったのよ。(笑)

スミマセン。(笑)

でんでん でもね、喜劇でも悲劇でもなんでもやりたいね。僕が憧れてたのは渥美(清)さんであるから、渥美さんの根底にはそういう悲喜こもごもがありそうな感じがするからね。

はい。

でんでん あとは、そうだな、監督が僕にシゴトをくれれば。(笑)

監督 はい。(笑)

最後にお二人にニューヨークという街の印象を聞かせてください。

でんでん また来たくなりましたねー。何度でも来たいなーって。知れば知るほど深みにハマっていくような感じで。もっともっといろんなニューヨークを知りたいです。人がね、面白い! いろんな人、いらっしゃいますよね。それを見るだけで、もう楽しくなって……で、むちゃくちゃ疲れます。(笑)

監督 疲れますね、確かに。(笑)

でんでん でも、それでも、飽きるまで来たいなって思います。

監督 西(海岸)よりは好きですね。思ったよりこぢんまりしていて、日本人が好きな感じがしますね。ただ、ちょっとお金(物価)が高くなりすぎて、ちょっとセレブな街みたいになってますが、まだまだ面白いんじゃないですか。アメリカの中では、唯一、インデペンデント精神のあるインディーズな街って感じもしますね。

もう一つだけ。でんでんさん、最後に読者にメッセージをいただけますでしょうか。

でんでん え。えーっと、日本人としての地位を高めるようにね、うーん…皆さん、頑張りましょう! ってことで、はい。

ありがとうございます。

でんでん また、急に振ってくるから、質問! ドキドキしたよ!

 

★ インタビューの舞台裏 → ameblo.jp/matenrounikki/entry-12212057005.html

 

(左から)アダム・トレル氏、内田英治監督、でんでんさん

(左から)アダム・トレル氏、内田英治監督、でんでんさん

 

でんでん 職業:俳優
1950年生まれ。福岡県出身。30歳の時、素人でも参加できるお笑いスター誕生番組にて8週勝抜きを果たし、このテレビ初登場をきっかけに映画、テレビ、舞台には欠かせない俳優となる。出演作品は100本以上を超え、黒沢清監督『CURE』(1997年)、清水崇監督『呪怨』(2000年)など数々の有名作品に出演。一躍注目を浴びた、園子温監督『冷たい熱帯魚』(10年)では第35回日本アカデミー賞助演男優賞など多数の賞を受賞。公式サイト:goo.gl/KffklF

〈『下衆の愛』監督紹介〉
内田英治(うちだ・えいじ)
1971年生まれ。ブラジル・リオデジャネイロ出身。2000年テレビドラマ『教習所物語』で脚本家としてデビュー。04年『ガチャポン』で劇場公開作品を初監督。「第8回 JAPAN CUTS」上映作品でもある『グレイトフルデッド』(14年)は、ベルギーのブルュッセル・ファンタスティック国際映画祭、米国のファンタスティック・フェス、英国のレインダンス映画祭など世界30以上の映画祭で上映され、絶賛を浴びる。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2016年10月1日号掲載)

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