音楽によって日本への自信が持てるきっかけを与えたい
「ガチ!」BOUT.160
現在、「Taro Hakase World Tour 2013 JAPONISM」と銘打ったツアー(全45公演)中のヴァイオリニストの葉加瀬太郎さん。今回は海外5公演を含む自身初となるワールドツアーとなり、 12月5日にはニューヨークのTOWN HALLで演奏する。ニューヨーク公演直前、お話を伺った。
(聞き手・高橋克明)
◇ ◇ ◇
初のワールドツアー、NYでは12月5日公演
現在、ワールドツアーの真っ最中。今のところの手応えはいかがでしょう。
葉加瀬 ええ、頑張ってます(笑)。9月からずっと日本全国を回って、今はもう半分以上終えたのかな。毎年のことなんですが、本番を重ねていくうち、だんだんだんだん内容も変わっていくので、毎日手を抜かず頑張ろうって感じですね。
今回は海外5公演も含む、合計45本のツアー。お気持ちの上でも今までのツアーと違うのでは。
葉加瀬 規模自体は実は従来と変わらないんですよ。ただ海外も含めたことで言うなら、まったく今回がトライアル という気持ちもありますし、そして次につなげていくための第一歩という気持ちもありますねー。日本を飛び出すってことで、すこーし(コンサートの)内容も変えますので、今はそのリハーサルの真っ最中ですね。
3年前のインタビューの際、ツアー時の体調管理の秘けつを聞くと、「ミュージシャンは遊んでるだけですよ」って笑ってらっしゃいました(笑)。今回のような規模だと、さすがに気を付けてらっしゃることもあるのではないかと…。
葉加瀬 まぁ、うまいもん食って、うまい酒飲んでるってことだと思いますけど。(笑)
そこは変わらずってことですね。(笑)
葉加瀬 そこは揺るぎません。(笑)
今回のニューアルバムのタイトルは「JAPONISM」。どういった意味を込めて付けられたタイトルでしょうか。
葉加瀬 そうですね、音楽をやってる身としましては、今はどんどん、垣根がなくなってきているとはいえ、まだ日本人には拭いきれない欧米コンプレックスみたいなものがあると感じるんですよ。ジャズをやるならマンハッタンに行かなきゃいけないとか、ロックをやるなら ロンドンに行かなきゃならないとか。でも実は、僕なんかがロンドンでイギリス人と話をしていても、みんなが憧れを持っている都市っていうのは東京だったり するんですね。
ニューヨーカーも同じだと思います。
葉加瀬 だから、その意識を日本人である僕たちが持ててないのはおかしいと思うんです。世界で憧れられて、逆に「えっ!?」って驚くことが多くて(笑)。母国に対する価値観みたいなものを、僕自身もう一度考えたくて、それで作ったアルバムなんだと思いますね。
コンサートにもその思いが込められている、と。
葉加瀬 僕がロンドンに移り住んで7年という月日が経っているんですが、今、あらためて自分の国に対する気持ちを確認したいと思ってます。読者の皆さまもニューヨークにお住まいだから分かるかもしれませんが、海外で暮らしていくと、逆に日本で生活していた時より、 日本のことを意識することが多いんですよね。
おっしゃる通りだと思います。
葉加瀬 そうすると、やっぱり愛国心みたいなものがどんどん高まっていくし、僕の中ではイギリスで生活して、いろんな国を見て、あらためて日本ってすごい国だなぁって。美しい国だし、素晴らしい国だし。それをすごく実感するんですね。
はい。
葉加瀬 ただそれと同時に、何か物足りなさも感じるんです。唯一足りない物は「日本人としての意識」、そして「日本人としての自信」みたいなものなんじゃないかなって。もっと自分たちの国民性みたいなものに自信が持てるようなきっかけを与えたいっていう気持ちはとても強いですね。
今回は、バンドメンバーを引き連れてのツアーです。初めての試みということですが。
葉加瀬 そうですねー。メンバーの中の何人かは僕が18歳のころからのつきあいなのでざっ と計算しても、もう四半世紀以上(笑)。長くいるからいいってもんじゃありませんが、志を共にしてずっと歩んできた仲間たちと一緒に音楽を作れるというの は、やっぱりこんな幸せなことはなくて。僕にとっても自信につながりますから。そういう意味では僕が楽に演奏できるってことですね。
ロンドンを含む今回のツアー。それでも在ニューヨーク邦人の僕たちは葉加瀬さんにとってニューヨークが特別な場所って言ってほしいです(笑)。
葉加瀬 いやぁ、もちろんそうですよ。やっぱり、“ニューヨーク イズ ニューヨーク”ですから。僕が初めて行ったのは1996年のことですから、もうずいぶん前になるんですが、実はロンドンに住む前に、ずっと頭の中で計画してたのはニューヨークに住むことだっ たんですね。結局、その後、子供が出来たりして、ロンドンをチョイスしたのですが、今でも住みたいと思ってます。(ニューヨークって)アメリカの中心ってだけでなくて、世界の中心ですよね。間違いなく文化的な面だけに限らず、いろいろな意味で世界中の人たちにドアを開けている街ですから。こんなにも夢を持って何かをトライしたい街は世界中どこにもないと思うんです。僕にとってもワクワクして、ドキドキさせてくれる特別な緊張感を持った街ですね。
最後にニューヨークの読者にメッセージをお願いします。
葉加瀬 何より感じるのは、夢を持った人たちばかりが世界中から集まってる街なんだなってことですね。何度行っても僕が感動するのは、いろんなコミュニティー、エリアで(世界中の)あらゆる言語が飛び交ってるのに、メインのストリート、アベニューに出た時は、やっ ぱりみんな英語でコミュニケートする。まさに世界の縮図だと思うんですよ。僕なんかも、やっぱりいつかは住みたい。まだその夢は捨ててないので(笑)。いつかは移り住むと思うんです。子供が大きくなってからかなぁとか。いくつになっても、若い時に持った夢みたいな物を捨てずに追っかけていく人の街だと思うので。きっと人間生きていくって、そういうことなんじゃないかなと思うんです。
●NYライブ情報● TARO HAKASE World Tour 2013 JAPONISM 【日時】12月5日(木)午後8時 【会場】TOWN HALL(123 West 43rd St, bet B’way & 6th Ave, NYC) 【チケット】49.50ドル〜89.50ドル 【予約】www.ticketmaster.com/チケットマスター:800-745-3000
■最新アルバム「JAPONISM」 NIPPONの誇る魂を音楽に込めて、心突き刺す叫びを世界に発信! 葉加瀬太郎2013年のオリジナルアルバムのキーワードはズバリNIPPON。和楽器を大胆に取り入れた楽曲を中心にアルバムを構成。サウンドプロデューサーに羽毛田丈史氏を迎え、ゲストミュージシャンに雅楽師・東儀秀樹氏、三味線奏 者・上妻宏光氏、ソプラノ歌手・鈴木慶江さん等が参加。国土交通省観光庁Visit Japan事業「DISCOVER the SPIRIT of JAPAN」のタイアップ曲「NIPPON」や、スマイルとうほくプロジェクトのイメージ曲「Smile for you」、中島美嘉歌唱、葉加瀬太郎作曲セルフカバー「沙羅」などを含む13曲を収録。(HUCD-10143/B、2013/08/21発売)
葉加瀬太郎(はかせ たろう)
職業:ヴァイオリニスト
1990年にKRYZLER&KOMPANYのヴァイオリニストとしてデビュー。96年の解散後はソロアーティストとして、国境やジャンルを越えてオリジナリティーに富んだ独自の世界観を創りだす。今年8月にリリースした最新アルバム「JAPONISM」ではNIPPONをキーワードに和楽器を取 り入れた楽曲を中心に構成。9月には「Taro Hakase World Tour 2013 JAPONISM」と銘打ったツアー(全45公演)をスタートさせた。海外5公演を含む自身初のワールドツアーとなり、活動の場を海外へと広げている。
【ウェブ】hats.jp
〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。
(2013年11月23日号掲載)