今井雅之

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“パールハーバー”に公開の意味

 「ガチ!」BOUT. 14

 

ニューヨーク近代美術館(MoMA)で試写上映された、今井雅之監督・主演による映画「THE WINDS OF GOD KAMIKAZE」。地道なプロモーション活動の末、こぎつけた米国での上映ツアー。ニューヨークでの一般上映を目前に控え、全編英語で製作した渾身(こんしん)の一作について、その思いを語ってもらった。(滞在先のニューヨークのホテルにて)(聞き手・高橋克明)

 

監督・主演映画「THE WINDS OF GOD KAMIKAZE」

先日行われたプレミア試写会、大成功おめでとうございます。今回何がすごいって試写会をあのMoMAで開催しました。

今井 いやぁ、僕もびっくりしました。最初、NOVAかと思ってしまいました。(笑)

駅前留学(笑)?

今井 いや、冗談じゃなくって、初めは本当にそう思ったくらいで。こっちのアーティストたちに聞いたらびっくりしちゃって「自分たちは世界中からMoMAで展示をするためにこうしてやってきたのに、おまえはもうやっちゃったのか」みたいに言われました。本当はね、ダウンタウンのもうちょっと小さなとこでやる予定だったんです。だけど「こういう作品はMoMAレベルでやらないとそういう作品になってしまうから」ってチームの人に言われてね。

全米各地で何度も上映会をされた中、今回のニューヨーク上映会はそのどれとも気持ちが違ったとお聞きしましたが。

今井 やっぱり最後の上映場所にニューヨークを選んだのは個人的に好きなんですね、この街が。この世田谷区と同じくらいの広さの所に世界の金融と経済と芸術が集中してる。舞台やってるころからこの街で勝負してえな、と思ってましたし。エンターテインメントを象徴するこの街で僕たちアジア人が攻め込んで、最後にMoMAで上映できたのは本当にうれしい事でしたね。

誰も挑戦しなかった題材に挑戦されました。

今井 「この指とーまれ」でやってきた感じですから。結局誰もとまらなかったけど(笑)。作った本人としては最低レベルの到達点には行けたのかなとは思っています。ただ興行主としてはまだ全然返せていないですね。この5年間を思い起こしてぱっと出てくる言葉は「孤独」なんですね。ほんっとに孤独でした。そりゃそうだ、好きで自分でやろうって言ったんだから。アジア人がこっちで何かを成し遂げようとする時の壁の大きさをあらためて実感させられました。

8c39a5f93b78647c34415439232696a7その孤独のかいあってか、上映後は観客もスタンディングオベーションでした。

今井 いや、終わった今も怖いですよ。この前もサンディエゴのプレスの方が絶対この後、気をつけた方がいいって言うんです、マジな顔して。映画を観てあなたの意見には賛成するけどやっぱり危ない人もいるからって。でも作ってる最中は「怒り」を持って作ってたわけだから、ちょっと、分かってよって(いう気持ちで)。だからそれはしょうがないですね。

この作品を通じて今井さんが伝えたかったメッセージは一言でいうとなんだったんでしょうか。

今井 とにかく一点、テロとあの神風攻撃ってのは全然違うんだよって。あの神風の特攻作戦を認めろって言うんじゃなくて、その戦闘機に乗っていた方々はテロのような卑怯な宗教に絡んだものではなかったんだよって。それを言いたくて作ったんでね。こっちの辞書にも特攻隊=クレイジーって書いてあるけど、戦争がクレイジーであって、特攻隊にいた彼らがクレイジーだったわけじゃない。実際乗ってた方は普通の人よりも紳士だった、そこを伝えたかった。僕がすごく日本人の好きなところは「後ろから斬らない」というところ。今は武士道なんてなくなってきちゃってるかもしれないけど、忘れちゃいけないスピリットですよね。一般人を巻き込むテロを神風とは表現してほしくなかったんです。

全編英語劇ですから、かなり英語の特訓をされたんじゃないですか。

今井 しました、しました。とにかく徹底的にやりました。アクセントをできる限りとるために2年近く先生を雇ったり、一時は合宿なんかして、日本語しゃべったら100円みたいなことまでやってね。でもね、でもやっぱりネーティブと同じようにはしゃべれないですよ。20年、30年住んでないと。やっぱり30過ぎてから覚えた英語ってのは限界あります。ただ、英語でやる以上は逃げたくなかった、っていうのが本音かな。こっちのアメリカの方々に観てもらわないと意味がないんでね。

いよいよ12月7日から2週間ニューヨークで公開されます。

今井 12月7日ってのは現地時間で“パールハーバー”の日です。その日に公開する意味をね。アメリカのプレスの方にも「挑発的だ」なんて言われたり、どうしてもケンカしに来たみたいに思われがちですけど、そうじゃなくてコミュニケーションをしに来ているので。実際、アメリカの方で9・11は覚えてるけど12・7は忘れちゃってる人がいっぱいいます。言ってみれば殺し合いが始まった日ですよね。なんで殺し合いが始まったのか、それを思い出さなきゃいけない日だと思うんですよ。でないとまた繰り返すことになりますから。歴史ってのは未来のためにあると思うので。

この作品は今井さんのライフワークの一つだと思うのですが、ゴールを100としたら、今現在は何メートルでしょうか。

今井 1.5メートルかな。まだまだ先は長い。こっちで勝負するためにはまず、アジア人であること、日本人であることの壁を超えていかなきゃいけない。ハリウッドが5年や10年に一度、日本に興味を持つのを待ってるだけじゃダメなんですよ。だってハリウッドは待ってないじゃないですか、どんどん来るじゃないですか。やっぱりこっちも攻めていかないと。残念だけど、この戦後60年っていろいろな意味で待ちっぱなしだったわけです。例えば海外に出るとSONYとかTOYOTAとかは聞くけど日本人って顔が見えないよね。やっぱり重要なのはパイオニアであること。野球で言えば松井でもなく、松坂でもなく野茂でしょうね。彼が開拓したから今があるわけで。だけど今、野茂さんのこと、日本でなんて言ってるか知ってます? 「終わった」って言ってるんですよ。そういうこと言ってる精神を変えなきゃいけないし、終わったんじゃなくて、彼がパイオニアなんだよって。日本政府は彼を一生面倒みるべきだと思う。

闘い続けてきた今井さんですが、次回作の予定は決まっていますか。

今井 うーーん、今回のような問題作でなく、どーでもいいような恋愛モノにしようかなって(笑)。だったら誰も文句言わないでしょ。でも本音を言うとね、少し休みくださいって感じですね。(笑)

 

◎インタビューを終えて

常に闘ってる人だなと感じました。もちろんエンターテイナーとして物を創る時、採算を度外視するわけにはいかないけれど、それ以上に自分の伝えたいことを伝えていく。それが映画人というなら、なおさらメッセージとして作品を創っていく。そんな信念がインタビュー中にもヒシヒシと伝わってきました。作品のテーマは政治的にも重過ぎて簡単には白黒つけられるものではないと思います。ただ少なくとも、生涯を通じて何かを伝えていくというその姿勢には男として惹(ひ)かれるものがありました。今井さんにインタビューを受けていただいたのは実はこれで3回目。その3回ともにまっすぐにこちらを見て熱弁していただきました。日本人だから、ということではなく一度は必見の映画だと思います。

今井雅之(いまい・まさゆき) 職業:俳優、監督、脚本、演出家

1961年兵庫県生まれ。舞台、映画、テレビで活躍。著者も多数ある。陸上自衛隊第三戦車大隊退隊後、86年、奈良橋陽子演出「MONKEY」で舞台デビュー、翌年にはテレビデビューを果たす。自ら中心となって結成されたエルカンパニーがプロデュースする「THE WINDS OF GOD」で91年、文化庁主催芸術祭において史上初の原作・脚本・演技の3役で受賞、93年には国際連合作家協会芸術祭を受賞する。映画界においても95年日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞するなどテレビ・映画・舞台・小説などさまざまな分野で活躍中。

オフィシャルブログ:ameblo.jp/i-masayuki/

■映画上映「THE WINDS OF GOD KAMIKAZE」

THE WINDS OF GOD KAMIKAZE

1988年より上演され続ける今井雅之演出の舞台劇を全編英語脚本で映画化。95年に映画化されているが今回、米国公開用に全編英語でリメークした。

〈あらすじ〉ドイツ系白人のマイクと日本人とアメリカ人のハーフのキンタは売れないコメディアン。彼らはある日、ニューヨークで交通事故に遭う。意識を取り戻すとそこは1945年の日本で、2人は日本人となり神風特攻隊員として出撃することに。

・上映期間:12月7日(金)~20日(木)

・劇場:The ImaginAsian Theater

・映画公式サイト:www.windsofgod.com

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2007年12月2日号掲載)

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