育児放棄された子供たちに自分と同じ目に遭ってほしくない
「ガチ!」BOUT. 232
ヤクザ業界でトップに立ち、カリフォルニアの刑務所で服役中チカーノ(メキシコ系ギャング)のボスになった男は13年近くの服役生活を経て、現在、恵まれない子供たちのボランティア活動に生活を捧げています。育児放棄された子供たち、引きこもりの子供たちを無償で預かり、その子供たちのために私財を投げ打って建設したマリーンスポーツを扱う施設「HOMIE Marine CLUB」には、子供たちだけでなく保護者も含め、多くの人が集まります。初インタビューから4年。現在のKEIさんに再びお話を伺いに行きました。
(聞き手・高橋克明)
「チカーノになった日本人」に4年ぶりにインタビュー
4年前に初めてインタビューさせていただいた時から、KEIさん自身が非常にメジャーになって、いろいろと周囲の環境も変わられたのではと思っていました。良いことも悪いこともあったのでは。
KEI そうですね。もちろん協力してくれる方もいっぱい来てくれますけど、結構、ダマされたりもしました(苦笑)。最初は「ぜひ、手伝わせてください」って、ボランティアとして来て、いい人そうだから信用して全て任せると、日に日に現金がなくなっていっちゃったりね。25万円くらいの単位で10回か20回くらいやられちゃいましたね。(笑)
笑い事じゃないです!(笑)
KEI 例えば、日本各地(のいろいろな機関・団体)に行って、自分(KEI)の名前を使って「寄付してほしい」って900万円くらい取っていったのもいました。
KEIさんの名前を使って寄付金を取ってきて、結局、自分の懐に入れる。
KEI 自分はその事実すら知らないですから。なので後になって、寄付してくれた人に「900万(円)も寄付してもらって、ありがとうもないのか」って言われたり。なんのことか自分はサッパリです。結局、警察まで出てきて、どうやら常習犯だったらしいんですけど、去年のうちだけで、合計2000万(円)近くやられちゃってますね。
KEIさんがまたスグ人を信用しちゃうから…。
KEI 結局、だまされちゃいますね(笑)。あとは、 例えば「埼玉で(クラブの)支部を出させてほしい」、とかいっぱい来ます。どう見ても、真面目にやれそうじゃないコとかね。結局(それを口実に)ただ寄付金を集めようとしてるんですよね。「支部は一切出さないし、認めない」って全部断ってるんだけど、次から次にそういうのが来ますよね。
KEIさんの求心力は、あまり来てほしくない人まで引き寄せちゃいますね。
KEI もちろん、そんな人ばかりじゃないですよ。いい人もいっぱい来てくれます。(クラブの)シャワー室を見て「これじゃあ、みっともないから」って、女性用のシャワールーム二つ(の費用)、500万円をポン! って寄付してくれた人もいますしね。そんな感じで良かった出会いもあります。特に子供たちはいいですね。最初は自分の顔も見ずにどこか行っちゃってたコも、時間が経つにつれて、今では自分の顔を見たら走ってきてハイタッチする。その瞬間は、やってて良かったなぁって思います。それだけが唯一の幸せですね。
今、何人くらいの 子供たちが来ているんですか。
KEI 40人くらいです。みんな自分の名前を覚えてくれてますね。例えば、みんなでツーリング行こうってなったとき、30台くらいで行くんですけど、子供たちがみんな「今日はオレがKEIさんの後ろ乗るんだ!」って喧嘩(けんか)が始まるんですよ。自分のジェットって、自分以外に、あと二人しか乗れないんです。なので30人くらいの子供たちが(その2席をめぐって)一斉に喧嘩し始めるんです。それが、もう、うれしくてね。
子供たちの話をする時のKEIさんは本当にうれしそうですね。私財を投げ打ってまで、子供たちのボランティアをするのはなぜでしょう。
KEI 自分が小さい時に育児放棄されたじゃないですか。親戚中たらい回しにされた。小学校の時は、今年の正月に履いてる半ズボンは、来年の正月まで履かなきゃいけない。真冬でも半ズボンです。靴下は履いた記憶もないです。それだけ貧乏だったんですよ。どこに預けられるか分からない。行儀よくしてないと飯も食わせてもらえない。そういう経験をしたから、今の育児放棄された子供たちに同じ目に遭ってほしくない。それだけですね。
当時の自分をつくりたくない、と。
KEI 例えば母子家庭の子供を今、面倒を見てるんですけど、育児放棄してるお母さんが、極端に言えば、うちに来て酒を飲んでもいい。その間にうちのスタッフが、自分が、子供たちを遊ばせてあげたい。(母親も)ここで酒飲んでワイワイやって、少しでもストレス解消になれば、また子供に対する態度も変わるかもしれない。帰った後に、子供に当たらなくなるかもしれない。親も発散できてるわけですから。
それだけでも意味がありますね。
KEI 今の時代、結構、裕福な家庭も珍しくなくて(普通の家庭は)週末、家族旅行にも行くわけですよ。月曜日に学校で「ディズニーランド、行ってきた」「ユニバーサル・スタジオ、楽しかった」って話になるわけです。でも母子家庭の子供はその輪に入れない。でも、うちに来てくれると船で江ノ島に連れてったり、初島連れてったり、魚釣りとか、クルーザー乗ったりとかできる。
ディズニーランドより楽しそうです。
KEI 「オレ、船に乗ったよ!」って言える。会話の輪に入れるんですよ。その機会を自分は作ってあげたい。
「HOMIE Marine CLUB」に来るのは、子供たちだけじゃないのだとか。
KEI たまに学校の先生も相談に来ます。その先生のクラスに男子が25人いたとしたら、そのうち5人がどうしようもないわけですよ。先生じゃ対応できない。何を言っても言うこと聞かない。髪を金髪に染めて夜に街を徘徊(はいかい)する。そうすると学校の方に苦情が来るわけです。するとその先生、自分になんて言ったと思います?「KEIさん、この子たち、もう学校に来てほしくないんですよ」って。あと数年で、僕の手から離れるので、そうなったらもう学校関係なくなるから、それまで不登校でいてほしい、と。
ホントにそんなことを言う先生がいるんですか。
KEI 多いですよ。今、そういう問題児に関わりたくない先生、少なくないです。「だったら、君たち先生ヤメなよ」。自分はそう言います。先生になった意味がない。自分の生徒くらい面倒見れないなら、先生(という職業)を何のためにやってるの? って。(生徒が)いなくなるまでの3年間、いかに触れないで卒業してくれるか。そんなことばっかり考えてる先生ばっかりです。
今回、子供たちが遊ぶために、また新しいマリーナを建設されたとか。その莫大(ばくだい)な費用も借金で賄っちゃったんですよね。
KEI そうですね(あっさり)。自分の場合は、これをやろうと決めたら、どんな形でもやらないと気が済まないんです。それに子供たちに「KEIさんが出ていっちゃったら、オレたちどこで遊べばいいんだよ」って、言われて。そう言われたら「大丈夫だよ、違う所に土地買うから」って約束しちゃったんですね。(笑)
でも…○○円、近くかかったと聞きました。
KEI 結局、マリーナを作るのであれば、まずは380坪くらいの土地を買わないと無理なんです。で、どうせやるなら国土交通省の許可を取って、ちゃんと工事をして。最初に地面を作るために、11トンダンプ300杯分の砂利を敷いて。
11トントラック300杯分の砂利!
KEI うちの(奥さん)には「アンタ今年55(歳)よ!」って言われました。今、死んじゃったら、1億(円)の借金、どうやって返すの!って。(笑)
ヤクザ時代もトップを取って、ビジネスの世界でも、大もうけして、で、いま、子供たちのために借金まみれ(笑)。シビレます。だからこそ、この「HOMIE Marine CLUB」には、多くの人が集まるのかもしれませんね。
KEI 大人たちも含めると夏の日曜日なんか300人くらい集まっちゃいますよ。最初のころはツーリングしても5台くらいしか集まんなかったのに、40台くらい集まります。それぞれ2人ずつ乗るから、80人くらい。いい年したおっさんたちが、全開で80人くらい走ってる(笑)。今までマリンスポーツすらやったことなかった人が、去年だけでうちでジェット(スキー)の免許取った人が120人以上います。今も免許を取りたい人の予約が結構入ってます。
今後のKEIさんの夢を教えてください。
KEI すでにマリーナも出来て、子供たちも集まってきて、で、ここまで来ちゃったんで、できたら次は、親のいない子供たちが生活できる宿泊施設を造りたいんですよ。お金がなくても、気兼ねなく子供たちが泊まれる場所を造りたいんです。それにね、自分もまだアメリカンドリームを諦めてないですよ。今度、アメリカに向けて、通信販売を始めました。日本の本当の和彫りをデザインしたTシャツと長T(シャツ)を作って、ヨーロッパとアメリカで売り出すんですよ。特にドイツからの注文はスゴいですね。中途半端なモノ作ったら、絶対売れないんで、ちゃんとした本物を作るために、工場12件回りました(笑)。あとはうちの息子が今、アメリカで販売ルートを作ってます。もう1回、アメリカンドリームを、今度は違法じゃない洋服(事業)でね。(笑)
その利益もまたボランティアにつぎ込むんですよね。
KEI なので、うちの(奥さん)にも朝起きてから、夜寝るまで、「バカだ、バカだ」ってずっと怒られてます。(笑)
★インタビューの舞台裏★ → ameblo.jp/matenrounikki/entry-12169484377.html
KEI
1961年東京生まれ。ヤクザ時代にFBIのおとり捜査で捕まる。当時その刑務所に日本人はただ一人。徒党を組まず暴れまくるも、刑務所内で知り合ったチカーノと呼ばれるメキシコ系アメリカ人との交流によって人生における大切なものを学ぶ。2001年、12年8カ月という長い投獄生活を終え、帰国。投獄中に取得した精神カウンセラーの資格を生かし、05年、児童虐待(性的・暴力的)キャンペーンをテーマに無料相談を開始。カウンセリング活動を本格化していく。同時に全国各地の看護協会で講演活動を行う。09年、東京都教育委員会の要請を受け都立南葛飾高校での特別授業を委任される。自らの出自を踏まえ青少年、少女との相互理解に寄与。10年にはレッドリボンプレゼンツ・厚生労働省、財団法人エイズ予防財団後援「HOMIE CHICANO FES」でチャリティーイベントを開催。前代未聞の業界最大規模イベント。国内外の有名アーティストを招致しより一般の方のチカーノカルチャーへの認知を深める。12年8月よりオンライン上で主に児童虐待に関する相談窓口を展開しているGood-Familyがリニューアルオープン。同時に、九州支部としてGood-Homieを立ち上げ。子供に関する相談以外も受け付け、幅広いトラブルの相談窓口になっている。チカーノスタイルブランド「HOMIE」の代表として現在、神奈川県平塚市にショップを持ち、ファッション、タトゥー、音楽などのカルチャーを幅広く発信している。
〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。
(2016年6月18日号掲載)
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