「気付き」は一夜漬けではできない
「ガチ!」BOUT.139
昨秋NYで、「NY生活を100倍楽しくする方法」開催
数多くの人気番組を手掛け現在は企業ブランディングやゲームや書籍のプロデュースをはじめ国の事業まで手掛けるプロデューサーのおちまさとさん。東京とハワイの家に住みながら国内外問わず講演するなど、その活動は多岐にわたる。2年前からロサンゼルスでも講演を開始し、昨年は初めてニューヨークでも「NY生活を100倍楽しくする方法」(アムネットNY主催)を開催した。講演会前日、お話を伺った。
(聞き手・高橋克明)
◇ ◇ ◇
ニューヨークはお好きですか。
おち 好きですね。東京と近いものを感じるのですごい楽です。僕、洋服が好きで、ソーホーとか5番街のショップに入ると、こっちって、(店員が)「どこでその服買ったの」とか聞いてくるじゃないですか(笑)。そんな会話をするのだけで楽しいです。
来られたら、必ず行く場所ってありますか。
おち (テロ現場である)「グラウンド・ゼロ」には必ず行きますねー。あそこって、「自由」と「破壊」が同居した場所で、今のアメリカをすごい象徴してるなって気付いたんですよ。あの場所に立つだけで、いろいろ考えさせられますね。
あ~。そうですね。今気付きました。(笑)
おち アメリカってなんか不思議な国ですよね。僕はアメリカによって夢を見せられてこの職業に入ったんですけど、アメリカっていうのは一方で人の夢を摘んでいるじゃないですか。経済であったり戦争であったり。いつも相対する二つの面があって、ある意味「究極の国」だなって思います。
今回の講演のテーマは「気付き」ですが、おちさんにとって「気付き」とは何でしょう。
おち 僕の中の定義でいうと、「企画は記憶の複合に過ぎない」ってことなんですね。ある日当然、神様が舞い降りてきて、今まで思ってもいなかったことをべらべらしゃべり出す人はいないんですよ。やっぱり「あー面白いな」って5年前に思ったこと、2週間前に思ったこと、そして今日思ったこと、(これら)二つ以上の記憶がくっついて、人間は「あっ!」って思うんですね。これに他の人の記憶をくっつければ、違う企画が生まれ、「あいつは何であんなことばっかり思いつくんだろう」って一目置かれることになる。だから記憶がすごく重要なわけです。で、その記憶っていうのは「気付き」により生まれるもんだと思うんですよね。
まずは「気付か」ないと何も始まらない、と。
おち そう、そう。そうなんです。何でもいいんです。何でもいいから「あーこれ面白いかな」って思ったら考える。徹底的に考える。で、最後は「比べる」。「これイケるかな」っていうのを、同じジャンルじゃなく、違うジャンルのものと比べる。比較対象してみて、それで初めて(「企画」の)ワンセットなんですよね。
おちさん自身もその流れで企画を手掛けてきた、と。
おち それにプラスして、僕、ディズニーがすごい好きなんですけれども、(ウォルト・)ディズニーが「なんであれだけヒット作が出せてるんですか」って聞かれたインタビューに、「これだけ打席に立たせてもらったらヒットも打てますよ」って笑ってるんですよ。あのディズニーでさえも、打席に立たなければヒットも生まれないわけで、ゼロ打数一安打はないわけです。勇気を持って打席に立ち続けるということが一番大切なんですね。ハリケーンが来ようとも、大震災が来ようとも、立ち続けるってことが、企画を立てる原点に戻るってことですから。
打席数を増やすことがまずは大切なんですね。
おち でも、打率も上げたいじゃないですか。そのための「気付き」なんですよね。だからといって「ヒットの法則」っていうのはないんですよねー。だって、あったら全員が(その法則を使って)やるわけで、全員ヒットになっちゃうわけで、全員が10打数10安打ってそんな世界ないわけです(笑)。外れる人もいるから、当たる人もいる。でもヒットしたものを比較対象して比べていくと、共通点って絶対出てくるんですよ。その共通点を探すのも打率を高める方法ですよね。
なるほど。
おち そん中の僕の最大のファクターの一つは「ありそうでなかったもの」っていうのがキーワードなんです。結局、ビジネスモデルも、エンターテインメントも、「ありそうでなかったもの」しかヒットしないんです。「ありそうであった」はもう…ありますよね(笑)。「なさそうでなかった」は作っても当たらないからないんですね(笑)。「ありそうでない」。ネットでも何でも、これを売ればいい意味での隙間産業になる。そういったものを見つけていかなければいけないなって思いますね。
僕たちが「気付き」のために日ごろから心掛けることって何でしょう。
おち これは、もう日ごろからいろんなものにアンテナを張って、鍛えていくしかないでしょうね。僕はホノルルマラソンに出場するほど、ランニングが趣味なんですけど、企画における「プランニング」って、「ランニング」とそっくりなんですよ。同じですね。日ごろからの訓練が必要で、一夜漬けではできない。毎日いろんな気付き方をすることでしか、鍛えられないと思いますね。
今後もニューヨークでの講演を続けていってもらえますか。
おち ニューヨークと言わず、どこででも。ネットのおかげで、ニューヨークもLAもパリもコペンハーゲンも、東京と変わらない感覚でいられるわけですから。それに、世界中に日本人っていますからね。LAでも9万人、ニューヨークだと8万人。その規模で日本人が住んでいる都市を回って、できれば世界中でやりたいと思いますね。
おちまさと
職業:プロデューサー
1965年12月23日東京都生まれ。人気テレビ番組やウェブサイトの企画・プロデュース。「学校へ行こう!」「ガチンコ」「進め!電波少年」「内村プロデュース」「桑田佳祐の音楽寅さん ~MUSICTIGER~」「仕立屋工場」「グータン」など、数多くの人気番組を企画構成。また、数多くのファッションプロジェクトや企業ブランディングも手掛けるオールラウンドプロデューサーとして活躍中。さらにデザインや書籍やゲームプロデュース、作詞、雑誌連載、本の執筆、講演など、その活動は多岐にわたる。厚生労働省イクメンプロジェクト推進メンバー、経済産業省「平成24年度クール・ジャパン戦略推進事業」第三者審査委員会委員、「企業マッチンググランプリ」総合プロデュースも務める。オフィシャルブログ:ameblo.jp/ochimasato/
〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。
(2013年1月26日号掲載)