BOUT. 288
RIZIN代表 榊原信行に聞く
日本の総合格闘技をメジャーにした男
いよいよ明後日、ここマディソン・スクエア・ガーデンで堀口恭司選手、RENA選手が戦います。今のお気持ちはいかがでしょうか。
榊原 久しぶりにワクワクするというかね。このスポーツの“メッカ”で二人が戦えるのは個人的にもうれしく思います。ニューヨークはバイアコム(Bellatorが傘下)の本拠地でもあるし、最初にわれわれが選手を送り出す大会が、マディソン・スクエア・ガーデンなのは、光栄ですよ。
榊原代表がアメリカに乗り込んでくるのは2007年の「PRIDE」ラスベガス大会以来、約12年ぶりです。
榊原 MMAって、やっぱり日本とアメリカが中心になって育てたスポーツだと思うんですよ。なのでこういった形で、アメリカにまた戻ってこられたことは非常にうれしく思いますね。さらに、Bellatorとアライアンスを組んで、ご一緒できるのは、すごく光栄です。
業界最大手のUFCより、日本のファンにとっては、思い入れのある選手が多い、Bellatorとの提携の方がうれしいかもしれないですね。
榊原 そうですね。(エメリヤーエンコ・)ヒョードルもそうだし、(クイントン・)“ランペイジ”ジャクソンもそうだし、顔と名前が一致する選手も多いですからね。だからこそ、この先もBellatorと関係を深めていって、彼らが日本でまたカムバックしてくれたら面白いなと思いますね。
この先もBellatorとの関係は続けていく、と。
榊原 RIZINとしては、堀口、RENAだけでなく他の階級にも良い日本人選手がいっぱいいますから。日本人だけでなくライトヘビー(級)には、イリー(・プロハースカ)もいますし、いろんな階級で、積極的にトップ同士を戦わせて、点を線につなげることがこのスポーツをもっとメジャーにするために、絶対的に必要なことだと思いますね。
MMAは、やはり、いまだメジャースポーツとは言えないでしょうか。
榊原 そうなるためには(サッカーの)ワールドカップであったり、オリンピックであったり、4年に1回でもいいので、MMAでの世界選手権ができれば理想ですよね。MMAという産業が本当の意味でメジャーになるには、そういったことを誰かが提唱し、アクションして、実現する必要があると思うんです。そこに、僕たちの力でどこまでできるか分からないけれど、貢献できたらいいなとは思いますね。
MMAの世界選手権、想像しただけでもワクワクしますね。
榊原 やっぱり(各団体の)トップ同士がぶつかり合わないと。お互いにリスクはあっても、そこを恐れずにやることにファンはワクワクするわけですから。今回、(Bellator代表)スコット(・コーカー)と一緒にやれるのは、そこに可能性をすごく感じたわけです。だって、相手の土俵に自分のところのチャンピオンを上げるのは勇気がいることですから。信頼もないと無理ですしね。
榊原代表とスコット・コーカー社長のお二人にしかできないことですね。
榊原 もう彼とも長いですし、古くからの友情と信頼関係があるので。彼がストライク・フォース(の代表)、K―1のアメリカの代表だった頃からの旧知の仲ですから。
今や、RIZINの選手のタレント性も、勝負論も、ファンの熱気も、かつての「PRIDE」時代と比べても遜色なくなってきました。テレビの視聴率だけが追いついていない現状ですが…。
榊原 まず、メディアの環境自体が「PRIDE」時代と圧倒的に変わっています。時代が移り変わる中、ネット配信などに、僕たちがどうアジャストしていくか、だと思うんです。総合格闘技に限らず、スポーツコンテンツの需要は圧倒的に増していると思うんですよ。今回もDAZN(ダゾーン)で配信されるわけですが、同時に世界中の何億人が見られる環境も整ってきている。日本でも相当数の人たちが、堀口選手やRENA選手の試合を楽しみにしている。もちろん地上波の数字を担保しつつだけれども、未来を見据えた時に、いちばんキーになってくるのが、ネット配信をワールドワイドでやってくれるベストパートナーを探すことでしょうね。国内はGYAO!さんにやっていただいているけれども、世界配信をどういった形で、どのパートナーとやるのかが、今後の課題だと思います。
最後に、榊原代表の当面のゴールを聞かせてください。
榊原 今、僕たちが提唱しているフェデレーション構想を実現することですね。今回(RIZIN、Bellatorのそれぞれの)チャンピオン同士が、ホームとアウェーで戦うことになりました。こういった形で、どんどんオフィシャルに交流戦をするべきなんですね。そして、このスポーツが、NFL(米アメリカンフットボールプロリーグ)や、メジャーリーグべースボール(MLB)に匹敵するには、シーズンのピークを作らなくちゃダメです。WWEにしてもそうやってますよね。
スーパーボウルや、ワールドシリーズ、レッスルマニアのような。
榊原 そう。例えば、MLBも、NBA(米プロバスケットボール協会)も、NFLも、普段の地上波の数字(視聴率)のアベレージは、UFCとそう変わらないんです。だけど、シーズンピークのスーパーボウルの時だけ、8倍とか10倍になる。そこが(MMAには)まだないんですよ。(コナー・)マクレガーが出た時、ロンダ(・ラウジー)が出た時はポーンって数字は上がるけれど、シーズン制を引いて、必ずどこかでピークが来るものを作らなきゃいけない。僕らはそれをニューイヤーズイブにしたいと思っているんですね。当面は、そこに向けてBellatorと一緒にどう積み上げていくか。1年の締めくくりのお祭りとして、今年の集大成を皆さんにどう見せるか、ということですね。
今年の大みそかも、昨年のような衝撃がありますか。
榊原 期待していてください。(にっこり)
★ インタビューの舞台裏 → ameblo.jp/matenrounikki/entry-12480551062.html
榊原信行(さかきばら・のぶゆき) 職業:RIZIN代表
1963年生まれ。愛知県半田市出身。
大学卒業後に入社した東海テレビ放送系列のイベント会社で格闘技イベントなどをプロデュース・主催したことがきっかけとなり、高田延彦と知り合い、ヒクソン・グレイシー戦の実現に奔走。1997年10月、格闘技イベントとしては初の東京ドームでの大会となる「PRIDE.1」開催に携わる。2003年、DSEの代表取締役に就任後、「PRIDE GRANDPRIX」、「PRIDE男祭り」などのヒット興行を立て続けに放ち、一大ムーブメントを起こす。04年にはプロレスイベント「ハッスル」を立ち上げる。06年10月、ネバダ州ラスベガスで「PRIDE.32 “THE REAL DEAL”」を開催。日本の企業としては初主催となるラスベガスでの格闘技イベントを成功させた。15年10月に格闘技イベント「RIZIN」を立ち上げ、実行委員長に就任、現在はRIZIN FIGHTING FEDERATIONの運営を行う株式会社ドリームファクトリーワールドワイドの代表取締役社長を務める。
関連サイト:http://jp.rizinff.com/
(2019年7月6日号掲載)
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〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。