園子温、独占インタビュー

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BOUT. 300
映画監督 園子温に聞く

人間を描き、人間を励ましたい、ドキドキさせたい

「エッシャー通りの赤いポスト」米国での配信記念

数多くの作品が海外の映画祭に招待され、昨年はハリウッド作品のメガホンを取った日本を代表する鬼才、園子温監督。現在、オンラインで開催中の映画祭「ACA Cinema Project」で米国初上映となった最新作『エッシャー通りの赤いポスト(Red Post on Escher Street)』や、コロナ禍における日々などについてお話を聞きました。 (聞き手・高橋克明)

監督は、日本以上に世界での評価が高いですが、そのあたりご自身ではどう分析されていますか。

園 やはり自分が小さい頃からアメリカ映画やヨーロッパ映画をずっと観続けてきて、自然に影響を受けてますね。去年アメリカ映画を初めて、ニコラス・ケイジ主演の映画(『Prisoners of the Ghostland』)を撮った時にすごく自然に撮れて、そういう意味でも日本よりアメリカやヨーロッパで理解されやすい映画を撮っているというのは自覚的してますし、間違いなくそうでしょうね。

世界各国の映画祭に招待され、さまざまな賞も取られていますが、世界の観客と日本人の反応は違いますか。

園 僕はよく音楽に例えるんですけど、日本で流行(はや)ってる音楽って必ずしも世界でウケるとは限らないですよね。例えば、日本のロックも日本のポップスも日本以外ではなかなか受け入れられない。それと似ていると思うんです。(むしろ)日本で人気を勝ち取っているモノの方が逆に海外では理解されにくく、日本でマイナーなアンダーグラウンドと称されるモノが評価される。音楽も、映画もそう(いった傾向)だと思うんですよ。

なるほど。アメリカとヨーロッパでも、観客の反応に違いはありますか。

園 住んでないので何とも言えないですが、ただ「Prisoners of the Ghostland」がサンダンス映画祭でワールドプレミアをやるので、それ以降、アメリカでの僕のポジションはもう少し広がってくるかとは思っていますけれど。

監督の作品に出てくる登場人物は、全て魅力的でキャラが立っています。キャスティングの際、重要視されているところはありますか。

園 今作、今までと全く違う点は、ワークショップをやった点ですね。生徒さんたちにただ、授業をやってるだけじゃ面白くないから、ここの生徒全員で映画を作ってしまおう、と。ワークショップの生徒さんたちばかりが出演しているわけですよ。だから(今作は)彼らにとってのドキュメンタリーでもあると思っているんです。まだ役者や女優の卵で、これから世に出てくる彼らが映画のオーディションを受けて、落ちたり受かったりするその日の喜怒哀楽の中、そういう若者の青春像ってのはまさに今生きてる彼らの現実、日常なんで。そういうものを描きたいなと思いました。

この作品で監督が伝えたかったことはなんでしょうか。

園 人間が生きているその様を、どんどん時間を経て社会の中で自分がどれだけ生きていけるか果敢に取り組む若者たちを観てくれる人たちも励まされてほしいし、ドキドキしてほしい。よりドキドキする人生を、活性化させるような、そういう元気を与えられたらいいなと思ったんです。

コロナ禍において、制作活動、監督業で一番、大変だったことは何でしょうか。

園 大変というか、これ(この期間)は何かに使えないかなぁと思って。いつも「時間がない、時間がない」って言って、やらなかったことをやってみようと。そう思って、とにかくシナリオをいっぱい書きまくったんですね。なので、今年以降、撮りたい映画がいっぱい用意できました。コロナというつらい状況を何かに変換させていくのが、映画監督としての、コロナの過ごし方だった、という感じですね。

監督のこの先の活動について、教えていただきたいです。

園 日本映画よりも、アメリカ映画の方が、撮る機会は多くなってくるのは間違いないですよね。アメリカで撮っていって、たまに日本で撮る。そんな感じになると思います。アメリカで過ごす時間も増えてくると思います。

この先、日本映画自体は世界において、どうなってくるでしょう。

園 日本映画って、音楽もそうだけど、まったく独自、なんですよ。もしかしたら、世界のことを意識せずに、そのまま行った方がいいかもしれない。たとえば、江戸時代に鎖国をしたせいで、勝手に浮世絵や歌舞伎みたいな文化ができた。あまり世界の動向を意識せずに、独自の奇妙な方向に行ってしまえばいいんじゃないかなという気もしますね。

なるほど。最後に米国に住む読者にメッセージをお願いします。

園 僕の周りにはアメリカで何か勝負したい!っていう日本人の友達がいっぱいいて、良くも悪くも、まぁ、大変なことに挑戦するんだなぁと感心するんですけれど。僕も、去年初めてアメリカ映画のデビュー作を撮って、気持ちは23歳くらいになっているんだけれど(笑)、皆さんと同じように、アメリカでなんとかしようとする立場は同じなので。まったく同じ立場の土壌に立っているので、お互いに頑張りましょう、と。いろんな状況に勝っていこう、勝ち進んでいこう、そう思っています。

園子温

園子温(その しおん) 職業:映画監督
1961年、愛知県生まれ。87年、『男の花道』でPFFグランプリを受賞。PFFスカラシップ作品『自転車吐息』(90)は、ベルリン国際映画祭正式招待のほか、30以上の映画祭で上映された。他『愛のむきだし』(2008年)で第59回ベルリン国際映画祭フォーラム部門カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞、『冷たい熱帯魚』(11年)で第67回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門・第35回トロント国際映画祭ヴァンガード部門、『恋の罪』(11年)で第64回カンヌ国際映画祭監督週間に正式招待される。『ヒミズ』(12年)では、第68回ヴェネチア国際映画祭にて主演2人にマルチェロ・マストロヤンニ賞をもたらした。19年10月、Netflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』が全世界190カ国へ配信された。ハリウッドデビューを果たした、ニコラス・ケイジ主演「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」は21年初夏公開予定。

作品紹介
「エッシャー通りの赤いポスト」(Red Post on Escher Street)

同作は現在、米国(一部北米地域)で開催中の映画祭【ACA Cinema Project: 21st CENTURY JAPAN: FILMS FROM 2001-2020】(文化庁、ジャパン・ソサエティー共催)で米国プレミア上映。2月25日までオンライン配信中。
日本国内外で高い評価を受ける『愛のむきだし』『ヒミズ』の園子温監督が、監督・脚本・編集を手掛けた群像劇。映画制作の現場に居合わせ、さまざまに絡み合った人間模様を描いていく。
鬼才監督・小林正の新作オーディションに集まった有名無名の俳優たち。興味本位の参加者、亡き夫の遺志を継ぎ女優を志す者など、思惑を持った人間たちが入り乱れる。一方、小林はエグゼクティブプロデューサーの無茶な要求に苦悩するが、そんな時、昔の彼女が現れる。

(2021年2月13日号掲載)

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〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、1000人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

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