スタンダップ・コメディアン リオ小池さんに聞く

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いつも舞台から「逃げ出したい」

〈リアル〉File 5 

リオ小池(Rio Koike)

現地のコメディアンに交ざり、ニューヨークのコメディー・クラブに立つ日本人スタンダップ・コメディアン、リオ小池さん。「日本人がアメリカ人をネタにする」という、今までにない笑いの取り方で、米コメディー番組で冠コーナーを持つ。その一方、日本で話題の「S-1バトル」で、名だたるお笑い芸人らと共にベスト50まで進出してきた強者だ。
怖いー、と言う。
スタンダップ・コメディアンとして10年。年間100以上の舞台を踏み、数々のコンテストでトロフィーを勝ち取ってきた男は、しかしいまだにステージに立つことに「逃げ出したいと思わない日はねえよ」と笑う。

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リオ小池(Rio Koike)

 

場所はブロードウェーのど真ん中。ニューヨークに無数にあるコメディー・クラブの中でも白人の観光客が大半を占める「ブロードウェイ・コメディ・クラブ」。インタビューはそこの控室で行われた。隣のホールからは絶えず米国人の笑い声が聞こえてくる。「ネーティブ」コメディアンが「ネーティブ」オーディエンスから得意の時事ネタで爆笑を取っている。同国人ならではのニュアンスなのか、英語が理解できたとしても笑えないネタも少なくない。その空間は言葉も文化も違う外国人コメディアンにとっては「えずき」すら覚える、本人いわく「究極のアウェー」な場所。1万回以上の舞台経験を持つ小池に失礼とは思いつつ、彼とは旧知の仲、今からあの舞台に立つの? とインタビューを忘れ思わず心配してしまう。コメディアンでもないが、自身に置き換えると思わず身震いしてしまう。

◇ ◇ ◇

子どものころから、もともと人を笑わせるという事に興味があったわけではない。いわく「芸人が最も育ちにくい名古屋で育った」のも原因の一つだった(あくまで本人いわく)。
むしろ、一人でいる方が好きだった。実際ここまで来た事も「アクシデントの連続だった」と笑う。大学入学とともに「合格したら遊んでやろう」と決めていた通り「遊び」を探す。友人に誘われた社交ダンスも、そんな軽いきっかけだった。
そこでも学生選手権で準優勝をするなど「器用にこなしてはいた」。社交ダンスは男女それぞれ一人ずつ、と考えうる競技の中でも最少人数だが、それでも完全に一人でできるものを探していた。「一人で完結できるものはアカペラ歌手かスタンダップ・コメディアンしかない」

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それ以来「ニューヨーカーという世界で最もたち悪い客たち」を前に舞台に立ち続ける。外国人が笑いを取るということはハンデ戦にほかならない。数え切れないほどスベり続けた。スベるために時間が止まる。止まった時間は逆行していく。小池はそれを「生き地獄」と表現する。いまだに舞台に立っている間、頭にあるのは「一刻でも早くここから下りたい」。その一点でしかない。99回爆笑でも1回スベれば、ダッシュで逃げ出したくなる。仮に今ウケていても、その分、次の瞬間もっとスベるんじゃないかと想像してゾッとする。一度たりとも自分の笑いに酔いしれた事はない。「だってウケる要素がないんですよ。ブサイクでもないし。どこかイジリたいくらい」。今日も緊張するだろう。多分、明日も。この仕事をしてる限り、この恐怖からは逃げ切れない。舞台に上がってから下りるまでの頭の中でのカウントダウン。この10年、それをしなかった日はない。

◇ ◇ ◇

それでも、舞台に立ち続ける理由を「この世界はリスクも高いけどリターンも高い。それはある意味フェアだと思うんですよ」と語ってくれる。
確かに安定している職業とはいえない。いつもクビになるんじゃないかとプレッシャーを感じている。そして何より、スベるのが怖い。それでも気がつくとまた舞台に立っている。
恐怖が自分を舞台に立たせる。
「究極のMなのかなぁ…」

◇ ◇ ◇

言葉の違い、文化の違い、それを乗り越えるために「してない努力はない」という。
新聞の時事ネタは必ず読む。テープレコーダーに自身のトークを吹き込む。何度も同業者のネタを聞く。それがたとえ無駄な努力だと思ってもやる。
「なぜかって言うとこの国のブレークのきっかけって本当に分からないんですよ。こうっていうマニュアルがない」。だからこそ、できる努力はなんでもする。「アメリカと日本の笑いの質の違いをよく聞かれるんです。でも僕が一番つかめていない(笑)。やればやるほど分かんなくなってくる」。でも、それでいいと思うんです、と付け加える。「日本人が知っているアメリカのコメディーは氷山の一角。日本にあるお笑いの手法は実はすべてアメリカにもあるんですね」。だからこそ日米で笑いの質を分ける必要は、実はない。

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今の米国における日本のコメディアンの状況は「ちょうどメジャーリーグでいうと、野茂が来た年くらいと思う」。これから普通に日本のコメディアンがこっちで活躍するようになる、と言う。「言葉の壁っつったって、今ではメジャー(リーグ)でもコミュニケーションの必要なキャッチャーまで来る時代。(今活躍している)日本のお笑い芸人だってこっちに、挑戦に来さえすれば通用しますよ」。日本のテレビで見るお笑い芸人が普通にニューヨークのコメディー・ハウスに立つ時代が来るのだろうか。
「う〜ん、そうなっていたらパイオニアのような存在になれればなとは思いますね」

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インタビューはちょうど小池の出番が来て、彼の名前がコールされると同時に強制気味に終了される。
そしてその足で舞台に立った彼は、はっきり言ってその日誰よりも米国人の観客から爆笑を取っていた。その姿はカッコよくさえあった。これだけの笑い声の中、本人は一刻も早く舞台を下りたがっていると考えると、ネタの内容より笑えてしまった。 (敬称略)

現在、ニューヨークを代表する「ブロードウェイ・コメディ・クラブ」「ブロードウェイ・クラブ」「ニューヨーク・コメディ・クラブ」「コミック・ストリップ・ライブ」「ラフ・ラウンジ」などのステージにも定期的に立っている。また、年末には、日本人コメディアンとして初となる、カジノ街、アトランティックシティーのメジャーカジノホテル「ハラス・カジノホテル」でのコメディーショー出演が予定されている。

S―1バトルとは

お笑い芸人による映像作品から、日本の携帯電話であるソフトバンクのユーザーの投票によって月ごとのチャンピオンを選出するコンテストで、年に1回、月間チャンピオンによる最終決戦として年間チャンピオンを決定する。賞金は、月間チャンピオンが1000万円、年間チャンピオンが1億円となる。現在、10月度のベスト50には、千原ジュニア、ケンドーコバヤシ、しずる、はんにゃなど、日本のコメディー界で活躍するお笑い芸人が名を連ねる。小池さんは米国からの異例参戦で注目されている。9月度の優勝者はTKO(松竹芸能)。

 

舞台でパフォーマンスを繰り広げる小池=2009年9月25日、ミッドタウンウエストの「ブロードウェイ・コメディ・クラブ」

舞台でパフォーマンスを繰り広げる小池=25日、ミッドタウンウエストの「ブロードウェイ・コメディ・クラブ」

〈profile〉りお・こいけ(Rio Koike) 関西大学社会学部在学中、全日本学生ダンス選手権で準優勝する。同大卒業後、96年に渡米し、96年カリフォルニア・ダンスオープンで準優勝。同年、マジシャンとしての腕も認められ、ハリウッドのマジックキャッスルに公式会員として登録される。その翌年、日本で社会保険労務士資格を取得するなど、幅広く活動の幅を広げる。98年、コメディアンとして活動する道を選び2003年、NBC主催の「Last Comic Standing」で全米ベスト20に選ばれる快挙を成し遂げる。翌年、「Take Out Comedy Contest」で優勝し、日本人としては初の全米コメディーツアーを行う。ことし、コメディーセントラル局「American English with Jimmy T」(www.atom.com)に主演し注目されている。
公式サイト:www.riokoike.com

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

(2009年10月3日号掲載)

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