〈トップインタビュー〉第4回 米国宝酒造 社長 伊藤康二氏

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清酒と日本食だけでなく日本文化の普及の一役を担う

京都・伏見で創業以来170年以上の歴史を誇る老舗、「松竹梅」や「タカラcanチューハイ」、「タカラ本みりん」などでおなじみの宝酒造の米国法人として、米国産の米と水を使用した酒造りに取り組み続ける米国宝酒造「Takara Sake USA Inc.」。伊藤康二社長に、米国における清酒(日本酒)業界の現状や同社の取り組みなどを伺った。

勢いづく日本国外での清酒市場

伊藤社長がカリフォルニア州バークリー市の同社へ赴任したのが昨年4月。「日本食レストランの多さや、どのスーパーにも清酒があることに驚きました」と、1年前を振り返る。清酒の需要は日本国内では伸び悩むものの、2017年の日本から海外への清酒輸出額は約187億円。前年比20%増、8年連続で過去最高を記録した。この勢いは全米で7拠点ある米国宝酒造営業所からも感じることができるという。最近ではワインと同じように米国でも銘柄や好みでお酒を選んで飲まれるようになったそうだ。

米国の地酒を造り酒文化の革新と定着図る

米国宝酒造は需要に合わせて随時施設拡張も進め、豊富な品揃えと安定した品質管理を保ちながら、その生産力を高めている。同社が造る清酒は、全米屈指のワイン産地、ナパバレー近くの恵まれた気候で育つカリフォルニア米と、シエラネバダ山脈の軟らかい雪溶け水を使用した「アメリカの地酒」。日本から船便で数カ月かかる輸入品と違い、新鮮なまま食卓に届けられる。同社の米国での酒造りは、1983年から代表ブランドである「松竹梅クラシック純米酒」で始まり、翌年には「松竹梅にごり酒シルキーマイルド」の販売を開始、米国の地で酒文化の革新と定着を図ってきた。

最近では米国人による清酒のマイクロブルワリー(小規模醸造所)も急増し新たな競合相手が増える状況に「うれしいことです」と伊藤社長は話す。「日本人とは違う方法でお酒の情報発信をしてくれる。われわれも原点はマイクロブルワリー。アメリカの地酒造りを応援したいです」(伊藤社長)。同社が求めるのは自社製品の成長だけではない。「清酒と日本食、ひいては日本文化の普及の一役を担っています」と話す。情報発信の役割を果たす併設のSAKEミュージアムとテイスティングルームには年間約1万人が訪れる。

酒にも仕事にも大切なのは人との和

主に製造・品質管理部門で活躍した伊藤社長に清酒の楽しみ方を聞いた。「熱燗(あつかん)が好きです。温めて飲む酒類は世界でも少なく、いろいろな温度で楽しめるのが清酒の特徴であり醍醐味(だいごみ)でもあります」と伊藤社長。鍋や寿司(すし)はもちろん「焼肉と熱燗」「ラーメンとにごり酒」もお勧めだそう。「温めた純米酒は味わいがより深く広がりお酒の旨(うま)味を一段と感じやすくなります。ジューシーな肉と濃醇な酒の旨味が抜群にマッチするのです」と満面の笑みで話す。

親しみやすい人柄で社員にも慕われる伊藤社長。「『和醸良酒』という言葉がありますが、良い酒を醸すには造り手の和が、そして良い仕事をするのも人との和が最も大切です」と語った。

いとう こうじ 大阪府出身。北海道大学大学院卒業。食品学専攻。特定保健飲料を扱う宝酒造株式会社に興味をもち1996年に入社。酒類研究所に配属され、発酵の研究に携わり清酒の奥深さに魅了される。神戸・灘工場(現白壁蔵)、京都・伏見工場、7年間の中国・北京工場長、四日市(三重県)・楠工場長を経て2017年4月に米国宝酒造の社長に就任。

(2018年4月21日号掲載)

 

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