〈インタビュー〉コロナ禍、米国の日系社会の雇用状況を知る

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TOP-NY 田畑のり子社長に聞く

求められるのは自主的に自立して動ける人材

TOP-NYの田畑のり子社長

TOP-NY 田畑のり子社長

新型コロナウイルスのまん延で失業者が増える中、米国日系社会ではどのような雇用動向が見られるのか。世界10都市で展開する人材紹介会社TOP-NY(本社:ニューヨーク、top-us.com)田畑のり子社長にお話を伺った。

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失業者の急増で問い合わせが殺到しているのでは

サービス業を中心に求職者の登録は増えているものの、「殺到」というほどではありません。一時解雇も多いため「落ち着いてから探そう」という姿勢もあるようです。ここ6週間の目立った動きとして、地域や業種を超え高給取りの幹部クラスの登録が増えています。多くは、今後必要とされるスキルセット圏外にいて、これからも厳しい状況が続くかもしれません。

一方、今回の惨事対策として、通常の州レベルの失業保険に加え、連邦レベルでCARES Actが施行され、週600ドルの追加手当(最長4カ月)が7月末まで給付されます。こうなると年収5.5万ドル以下の人たちは、失業前より手取りが多くなるため就職活動をしなくなります。

米労働省が4月の雇用統計で失業率14.7%という戦後最悪となる数字を発表しましたが、「すぐ働くよりも失業保険の給付を受けた方が割高か」という人が相当数いるのも確かです。ある企業はロックダウン(都市封鎖)に伴い従業員をFurlough(一時帰休。無給だが健康保険などは負担)、そのロックダウンも解禁が近くなり呼び戻そうとしたところ、社員より拒まれることが発生しています。

本来、一時帰休者には失業保険は支給されないはずですが、急を要した作業のためか行政の混乱も多く見られます。飲食店など最低賃金上昇、設置施設の縛り、高額な家賃などに加え、今回のソーシャル・ディスタンシングの条件をクリアするのは不可能として閉店の声も多く出てきています。

また、気がかりなのは2009年のリーマン・ショック後に卒業した年代の人たちです。新卒の彼らは当時、採用取り消しなど2年ほどは求職に苦労した世代。それが今30代となり、家族や家を持ったばかりのタイミングで、このパンデミック(世界的な大流行)。再度、職を失ったり、学生ローン返済が終わったがモーゲージの負担が重い、将来が不安と辛い状況を語る人が多くなりました。

現在の雇用状況はリーマン・ショックよりもひどく、1930年の大恐慌時並みとよむ経済学者や、この秋にはCOVID─19(新型コロナウイルス感染症)の第2波が来ると確信する医学博士たち、いずれにせよ今後2年くらいは厳しい状況が続くのではないでしょうか。

“アフターコロナ”、全米の日系企業の状況は

企業に関しては、「何をどうしていいか分からない」という状況から、ロックダウン解除の時間割や指針が掲示され、予定が立つようになったので、新しい動きが見られます。

中西部では工場再開に向けて4月に提出されていた履歴書への問い合わせや、物流・食品関係の企業が多いロサンゼルスでもウェブ面接が多く入っています。また、システム・セキュリティーを提供している企業、医療機器など「リモートでもいいから」と入社や面接を急ぐ業界もごく一部ですが存在します。

企業にとっては「本当にそのポジションが必要だったのか」を見直すちょうどいい時期だともいえるでしょう。今後、人件費や賃貸料など固定費をカットし、代わりにアウトソーシングやシステム化、またリモート可能な仕組みを増やす動きは、当然起こることとして備えていく必要があります。このロボット化やアウトソーシング化は想像するより早く、ウーバーがタクシー業界を乗っ取ったくらいのスピードで定着すると思います。

逆に言えば、正社員にとっては厳しい状況となります。テクノロジーの進化でフラットマネジメント化が進化し、人事考課は見事なほどシステム化され、従来の管理職ポジションは少なくなります。

2016年以降スキルや実力、経験の有無にかかわらず、誰もが超強気で就職できた時代、「過剰な売り手市場」が、やっと落ち着いたという見方もあります。これまで採用条件で米系企業に勝てず、思うような求職者を確保できなかった、これはまさかの福音と安堵する会社もあります。

コロナ後に必要とされる人材像とは

ロボット化、アウトソーシング化が進む中で、まず、つまずくのはさまざまな技術やシステムを自社にどのように落とし込むのかという問題です。情報はあふれ、システムのサービスは日進月歩と豊富に選択肢があり、オンラインで直ちに購入できるものの、実際にそのテクノロジーをどのように自社に落とし込むか、それで問題解決できるのか。

これまで前例がない場合は、「無難税」を払うという方法で、有名企業の専門家を高額で採用していました、無難だから。今後必要な人材は、「無難税」を抑え、関係各署の事情の「行間」を埋められ、決まり切った業務の範囲を超えて企業貢献できる人です。トレーニングや、技術の勉強もオンラインでできるので、どこまで自主的に自立して動けるかキーワードになると思います。

TOPが現在取り組んでいることは

今期、積極的に行っているのはウェビナー開催です。毎週4月から新型コロナウイルス対策関連事項、会計、人事、雇用法、システム構築、人材育成などをテーマに開催中、どれも反響が非常に良く、いずれも案内と同時に300人程の参加者が集まりました。同様のウェビナーをメキシコでも、地元企業さまに向けて開催中です。今後はエリアや業界ごとに絞りこんだプチ・ウェビナーも行っていく予定です。

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当社のサービスはお客さま寄りで、業務も早くて値段も妥当であると自負しています。15万人のデーターベースから大量の履歴書を簡単に検索できますが、それをそのまま企業に送ることはせず、必ずスクリーニングしています。企業の歴史や強み、そこでのキャリアパスなどを、企業側の採用担当者に代わって、全米から集めた候補者にピッチしています。やはり人事は人と人。行間を埋められるようなアナログな作業を通して、企業にも候補者にも喜んでいただけるサービスに務めています。https://top-us.com/

(2020年5月23日号掲載)

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