『イチローがいた幸せ メジャー関係者50人の証言集』
杉浦大介・著
米大リーグ(MLB)のヤンキースでの大活躍で、ニューヨークで最も有名な日本人の一人となったメジャーリーガー、イチロー選手。イチロー選手のMLB通算3000本安打を機に、その功績を振り返ろうと編集された『イチローがいた幸せ メジャー関係者50人の証言集』。イチロー選手と対戦したピッチャー、チームメートや取材記者ら、親交が深い関係者など50人の証言を丹念に集めた力作だ。
著者はニューヨーク在住のスポーツライター杉浦大介氏。1999年の渡米以来、MLB、米プロバスケットボール協会(NBA)などプロスポーツの取材を精力的に続けてきた。
体全体を自らの思い通りに動かすイチロー選手。その周囲にはわれわれが想像も付かないような出来事やエピソードが多数存在する。
27歳でのメジャー入りに対しては「What if」(イチローがメジャーから出発していればという答えのない問い)がささやかれ、日米通算記録という概念についても、そもそも合算できるものなのかどうか、物議を醸した。08年秋にはイチロー襲撃未遂計画が報道され、チーム不和が起きた。2000年、シアトル・マリナーズ入団当初、現地では「背番号51」の適応を不安視する声も聞かれた。
逆境に屈しなかったイチロー選手、左方向にばかりヒットを打つことに苦言を呈した元マリナーズ監督ルー・ピネラに対しては、ホームランを打って見せた。初めての春季キャンプでの打撃練習でファウルばかり打つイチローは、当時のマリナーズ監督ジョン・マクラーレンに対してその理由を「より多くの球を見るため」と答え、信頼を勝ち得た。
「42歳という年齢でも、自分にはまだ証明しなければいけないことがあると心に定めてプレーしている」(イチロー選手の言葉。MLB.com記者ジョー・フリサロ氏の記録より)、「一塁ベースに走りながらスイングし、それでいてバットの芯に当て、打球を狙った場所に弾き返してしまう」(ニューヨーク・メッツ投手ジェリー・ブレビンズの証言より)など、関係者が語る言葉が生き生きと迫ってくる。
彼の現地「アメリカ」でのリアルな姿に近づける必読本だ。
紀伊國屋書店ニューヨーク本店でも購入できる。
〈著者〉杉浦大介(すぎうら・だいすけ)
【ニュースサイト】sports.yahoo.co.jp/column/writer/70
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(2017年1月21日号掲載)