南カリフォルニア倫理法人会・会員 「モンテッソーリ国際学園」創立者・炭川純代さん
〈インタビュー〉
経営者団体・倫理法人会には日本で6万7000社の多彩な会員が加盟しているが、教育者も例外ではない。2016年に設立した「南カリフォルニア倫理法人会」の会員であり、カリフォルニア州サンタアナ市にある「モンテッソーリ国際学園」の創立者・炭川純代さんにお話を伺った。
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モンテッソーリ教育はイタリア・ローマ大学で女性初の医学博士マリア・モンテッソーリによって生まれた哲学。子どもたちを科学的に観察し、その発達時期に合った“学ぶ環境”を整える。100年以上続き、世界では最も多くの教育機関に採り入れられている教授法でもある。
モンテッソーリ国際学園は、その教授法を採り入れて日英バイリンガル教育を実施している。10年にカリフォルニア州コスタメサ市の教会で開園し、12年にサンタアナ市へ移転・拡大。現在では1万2000スクエアフィートの敷地内に五つの教室と広い園庭を有し、2歳から小学生まで120人が通う学園だ。
日本で資格と経験を得て渡米
創立者・オーナーであり、初等科プログラムのディレクターを務める炭川さんは、日本でモンテッソーリ教諭の資格を取得した。短大を経て、当時日本で数少ないモンテッソーリを採り入れた幼稚園に就職。幼稚園は教諭に厳しく「(子ども見守るため)背中にも目をつけないとダメ」と言われ、クラスが終わると2時間にわたる園内清掃の後にミーティングをする毎日だった。しかしここで鍛えられたことが、後の自信につながった。
5年間幼稚園に勤めた後、日本よりモンテッソーリが進む米国に渡る。ニューヨーク州バッファロー市の公立校で1年間、実習の機会を得る。治安が悪いエリアで子どもの家庭状況も荒れていたが、モンテッソーリを始めると子どもが数カ月でみるみる変化するのを目の当たりにした。実習を終えると西海岸へ渡り、小学部の資格を得てロサンゼルスのカサモンテッソーリスクールへ7年間勤務する。その後結婚し退職。1年間のコミュニティー・カレッジを経てカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で心理学学士号を取得した。30代となっていた炭川さんは、遊びも盛んな20代の同級生たちを尻目に猛勉強し、UCLAを2年間で卒業。行動療法セラピストとして自閉症など障害児の支援活動を行った。そしてコスタメサ市の教会で学園を開設。通常の新学期である9月より遅い11月にスタートし、スタッフは炭川さんとアシスタントのエイミー・エバンズさんとの2人。園児はたった1人だった。それでも2年経つと園児は39人に増え、サンタアナ市の広い場所へ移転を決意。こうして大きな学園へと成長した。
今の自分を受け入れた時チャンス到来
炭川さんは「自分に子どもがいないといい先生になれない」と思い込み、不妊治療を続けていたがうまくいかなかった。ある時、その思いを吹っ切ると、日本から新しい仕事が舞い込み、別の道が開けていくのを感じた。その後の学園設立にもつながった。「子どもを持たず英語も得意と言えない自分が受け入れられなければ辞めよう」と思っていたが、親たちが見ていたのはそこではなく、炭川さんの「教育にかける精神と子どもとの信頼関係」だった。「願いが全て叶(かな)わなくとも、今の自分を受け入れた時に、その人に合った境遇やチャンスがやってくるのだと思いました」と炭川さんは語る。
現在は学園の経営者としても「人を育てる」ことに向き合う。倫理に入会したことで、その大切なことを学んでいるという。心を整える道徳の勉強をしたいと思っていた矢先に南カルフォリニア倫理法人会が開設し、縁を感じて入会。多くの経験豊富な経営者の話を聞くことができ、皆で心を一つにする場所があることに新鮮味を感じている。
子を持つ親にとって「早い時期にこれをやるべき」など情報の氾濫が困惑を生むこともある。そんな人のために炭川さんからアドバイスをもらった。
「教育方法にとらわれず、リラックスすることです。大人の心が整い、生き生きと暮らしていれば、それがスッと子どもにも流れます。くだけていようが厳しくしようが、親が本当に信じることを子どもは吸収します。そしてゆったりした心にモンテッソーリを採り入れたら、楽しくて仕方なくなりますよ」
(写真は「モンテッソーリ国際学園」の様子。いずれも提供)
●プロフィル●
炭川純代(すみかわ・すみよ)
5年間の幼稚園教諭を経て渡米。アメリカン・モンテッソーリ協会認定の幼児及び小学部の資格を取得し、カサモンテッソーリスクールに7年間勤務。03年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で心理学学士号取得。行動療法士として自閉症やその他の障害をもつ子どもたちにミュージカルを指導するなど支援活動をする。09年、聖カタリナ大学で教育学の修士号取得。10年、モンテッソーリ国際学園開園。現在はモンテッソーリ国際学園初等科プログラムのディレクターを務める。公益財団日本モンテッソーリ総合研究所研究員。カサモンテッソーリスクール役員。
(2018年10月6日号掲載)