日本クリニック「医療の時間」第24診
皆さん、少しずつ温かくなり春に近づいてきましたね。これからランニングなど体を動かす機会が増えるかと思います。ジムで栄養補給バーなどを手にしている人もよく見かけますが、今回はその栄養補給についてお話したいと思います。
耐久レース中の食事、軽食には終わりがありません。例えばメリーランド、JFKの80キロレースでは、ゆでたポテトとチキンスープが給食所で配られ、テキサスのロッキーラクーン耐久レースでは、「ご飯+豆料理」か「パスタ」のどちらかを選ばなければならず、その後もクッキーやキャンディーなどたくさんのスナックが支給されます。
そういったレース中に間食をするための、エナジーバーなどのスナックがお店の棚を埋め尽くしていますが、それらを食すほとんどの人は48キロ以上も走りませんし、その他のスポーツで同じ運動量をこなしているわけでもありません。
最近、米国スポーツ医学学会にから栄養学と能力の研究について公式見解が発表されました。5〜10キロレースでは、プロの選手でさえも、レース中にはスナックやゲルなどでの栄養補給は全く必要ないとのことです。もちろんこれらの補給にルールはありませんが、多分、広告の影響で、レース中には食事をしなければならないと勘違いをしている人が多いようです。ある程度の運動であれば体が蓄えたエネルギーだけで十分事足りるので、これらの栄養補給にはあまり効果がないのです。どの程度のトレーニングができるかは、レース前に摂取した食事によって決まります。
研究によると、1時間のトレーニングをしていたとしても、練習中の栄養補給は必要ないとのことです。中程度の選手の場合、トレーニング後の食事や水分補給は必要ですが、普通の健康的な食生活と充分な水分補給ができていれば、栄養補給目的のスナック、サプリメントなどは特に必要ないでしょう。
一方で、2時間以上のトレーニングをする場合は、その前や最中に何か栄養補給をする必要があります。怠って充分なカロリーを摂取しなかった場合は良くない結果を出すからです。長時間のトレーニング、例えば2時間以上のランニングなどでは膨大な血糖が失われます。ダイエットのために運動されている方もたくさんいると思いますが、もし体からグルコース(血糖)が消費されつくしてしまうと、脂肪ではなく筋肉を燃焼し始め、全くの逆効果となってしまいます。
普段あなたが一日に2000カロリーを摂取しているなら、それを充分に燃焼しきれなかった場合、使われなかったカロリーは脂肪として蓄えられます。減量をしたいのであれば、一日に2000カロリー以上、例えば2200カロリーを消費すれば、貯蔵されていた200カロリーの脂肪も燃焼されるはずです。しかしながら、公式見解によると、選手は食事から得たカロリーを400カロリー以上は燃焼すべきではないとのことです。もし一日に2000カロリー燃焼するならば、最低1600カロリーは摂取しなければ力が出なかったり、体がついてこなかったりするでしょう。大事なことは、カロリー消費をしようとする時には、その前の朝食でたくさんのカロリーを取ることです。
これらの事から、ほとんどのトレーニングでの栄養補給は必要ないことがうかがえるでしょう。皆さん、栄養補給スナックは手軽で魅力的ですが、余分な脂肪として蓄えてしまわないように、普段の食事からしっかり栄養を取りましょう。(米国スポーツ医学大学の研究報告より)
(次回は4月21日号掲載)
〈今回の執筆者〉ケン・ヴィターレ医師/Kenneth C. Vitale, MD
日本クリニック/15W 44th St. 10FL. NY,NY 10036
スポーツ医学、理学医療科、リハビリテーション科。NY大学医学部卒業。NYUHarkness Center for Dance Injuriesにて資格取得。アメリカ大学スポーツ医学会(ACSM)、東京大学、欧州などで講演を行う。