日本クリニック「医療の時間」第45診
皆さんは、治療の必要なうつ状態になる確率は女性の方が高いという事実をご存知でしょうか。女性の一生の間で、特にうつ状態になりやすいのが産後です。米国でのデータでは、産後3カ月の間に13〜19%の女性が産後うつ病になるという数字が出ています。特に、過去に精神科・心療内科で治療を受けた経験のある女性はかかりやすいとされています。しかし、こういった産後の精神的な問題はとかく見逃される傾向にあります。よくある原因として、周囲が「そのうちよくなるよ」と軽く受け流してしまうことでしょう。また、本人が「出産というすばらしい出来事を経験したばかりなのだから、私は喜びに満ちていなければいけないのに、なぜ悲しい気持ちを抱いているのかしら」と罪悪感を感じて、誰かに相談するのをためらったりする場合もあるでしょう。
産後うつ病とは別に、産後ブルーという状態があります。産後ほぼ直後に涙もろくなったり、不安を感じやすい、いらいらしやすい、または睡眠がよくとれないという状態になることです。産後の50〜80%の女性に起こるとされています。新生児の健康状態に問題があったり、仕事でトラブルがあったり、家族を含め周りの人との関係に問題があったりすると、産後ブルーになる確率は上がります。大抵の場合、自然とよくなりますが、20%が産後うつ病へと発展していくとされていますので、油断は禁物でしょうね。
産後うつ病は、一般的なうつ病の症状が特に産後期間に表れた状態で、悲しい、落ち込んだ気持ちや物事への興味、楽しめる気持ちがなくなった状態が少なくとも2週間、ほぼ毎日続いているという状態です。他の症状としては、倦怠(けんたい)感、動作が緩慢になるなどがあります。これらに加えて、特有な症状に、不安でたまらない、乳児の健康状態をまるでとりつかれたように心配する、また、乳児に対して暴力をふるうという考えが離れないなどがあります。最も重度になってくると、幻覚や妄想が出てきたりします。
原因としては、いろいろな因子がいわれていて、またそれを証明する研究も盛んです。出産前後にはホルモンの状態が大きく変わりますが、その変化への感受性が強い人ほど発症しやすいみたいです。体内のオメガ3脂肪酸の低下も一因として指摘されています。
放置しておくと、乳児が送るいろいろなシグナルに対する反応が鈍くなりますし、乳児の成長・発達に影響を与えることが分かっています。
治療としては、心理社会的な治療と生物学的治療があります。どちらも同じように必要とされています。前者は心理的サポート、病気についての教育、セラピーなどです。後者は薬物治療や、どうしても薬を飲みたくない人のための頭蓋骨を磁気で刺激する治療方法などがあります。
(次回は3月第4週号掲載)
〈今回の執筆者〉石川敦子医師/Atsuko Ishikawa M.D
日本クリニック/15W 44th St. 10FL. NY,NY 10036心療内科認定医。長崎大学医学部卒業。アイオワ大学病院で心療内科レジデンシー終了。2011年2月から13年4月までSUNYダウンステイトで心療内科医として勤務。