礒合法律事務所「法律相談室」
ニューヨーク市では市の衛生規定により、犬の所有者・管理者(以下、集合的に「所有者」)は長さ6フィート以下のリードを犬に装着していない場合、ドッグラン等の特定のエリアを除く、公共の場への立ち入りを禁止されています。しかし残念なことに規定を無視した犬の所有者が多くおり、又規定に従わない所有者を甘やかす、理不尽な判例も多々存在します。
最近の事例の一つでは、セントラルパーク周辺を自転車で走っていた常識人(原告)が突如道に現れた犬を避け切れず衝突し、怪我を負いました。衝突当時、所有者とその恋人は道路を挟んでお互いに向かい合い、片方が犬の名前を呼び、リードを外し犬を解放し、犬が所有者へ猛ダッシュした際、自転車と衝突したというものです。一般道路で犬のリードを外し、横断させた馬鹿カップル(被告)も問題ですが、被告の過失に基づく原告の主張を認めず、却下した裁判所、正確には裁判所に却下を義務付ける判例の存在、がより真剣な問題と言えます。
ニューヨーク州では犬を含む家畜の所有者には自身の家畜が起こした人身被害の際に自身が所有者である、という理由のみで、過失の有無に関係なく損害賠償責任が問われます。この厳格責任制(strict liability)は一見被害者を考慮した制度に思えますが、現実的には理不尽な結果をもたらしています。その大きな理由として、被害者は損害賠償請求の際に「事故当時、家畜の所有者はその動物の獰猛性・危険性の認識していた」という事を証明する義務があるからです。この証明ができない場合、「いかなる」場合でも家畜の所有者へ損害賠償責任を問うことができません。
今回のセントラルパークの事例の場合、常識的に考えると、リードから放された犬が獰猛・危険であったか否か、また所有者はその犬の性質を認識していたか、という事はどうでもよく、議論の焦点となるべき事は「頭の悪い人が犬をリードから解放していなかったら事故は起こらなかった、つまりは、事故が起こったのは所有者が市の衛生規定を従わなかったことに起因し、その事実が証明されれば、所有者に損害賠償責任が発生するべきである」という一般過失(negligence)に基づいた主張でした。しかしニューヨーク州では家畜が関わる人身被害においては、このような所有者の一般過失に基づく損害賠償の主張を認める民法・判例は存在しないため、今回の事例のような一般過失に基づき判断されるべき事例も、厳格責任制(strict liability)に基づく主張・証明が必要となり、それが不可能の場合、訴訟は認めらないという理不尽な結果になってしまいます。
(弁護士 礒合俊典)
◇ ◇ ◇
(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は2月第3週号掲載)
〈情報〉礒合法律事務所 160 Broadway, Suite 500 New York, NY 10038 Tel:212-991-8356 E-mail:info@isoailaw.com